出産は女性と家族にとって人生をかけた一大事業です。
妊娠初期から女性のカラダは変化しはじめ、日にちが経つごとにそれは大きくなります。
そして出産というイベントが無事に終わっても、カラダへの影響が出ることは少なくありません。多くのお母さん方は、自分のカラダを犠牲にして赤ちゃんを育てているという心境かと思います。
そのようなお母さん方の多くが訴えるトラブルが「妊娠・出産をきっかけにして尾てい骨が痛い」ことです。
では、なぜ尾てい骨周辺が痛むのでしょう。そしてその解決法は?
ここでは産前産後の尾てい骨の痛みの原因と解消法をお伝えします。参考意見として産婦人科医の先生の経験もところどころ交えてご紹介しますので、お悩みの方はぜひご一読ください。
※骨盤の形や出産の状況は各個人によって異なります。お伝えする情報はあくまでも参考意見として捉えていただき、痛みの強い際は主治医か整形外科を受診なさってください。
この記事は、米原幸愛先生に取材し構成しました。
医学博士・産婦人科専門医/日本コアコンディショニング協会認定講師&ひめトレインストラクター/日本ビジョンクリエーション協会認定心理ファシリテーター 他
1999年に鹿児島大学医局に入局し産科・婦人科の医師として勤務。主に産科を担当し以後キャリア17年。2012年11月今村病院産婦人科部長を経て現在は複数の産婦人科医院にてお母様方の健康な出産のために務めている。
目次
1.そもそも尾てい骨とは
尾てい骨は尾骨ともいいます。人間のカラダを縦に走る背骨。そのお尻側のもっとも先端の骨で、尻尾の名残と考えられます。
実は、お母さん方のトラブルはお尻から腰の下の周辺の痛みをすべて「尾てい骨が痛い」と認識している可能性が高いです。
尾てい骨とその周辺部分は下図の通りです。尾てい骨は小さい骨です。皆さんの痛みが起きている部分はどのあたりでしょうか? 仙腸関節の周辺などではないでしょうか?
「実は妊娠をきっかけに尾てい骨が痛いんですけれども」とお話しになる方は、仙腸関節やその他の骨盤周辺のあたりを示している場合が少なくないようです。
ですのでこの記事では「産前産後の尾てい骨痛」は尾てい骨に限らず、骨盤周辺(お尻や恥骨を含む)の痛みについて述べさせていただきます。
いずれにしろ、この痛みの原因を次のようにお考えではありませんか?
・妊娠&出産で骨が変形した
・妊娠&出産で骨の配列が狂った、骨盤が歪んだ
・妊娠&出産の後遺症で以前のような姿勢が取れなくなった
・出産で尾てい骨の角度が変わり椅子に当たるようになった
つまり、出産後いつまでたっても元のカラダに戻らないと 考えてはいませんか?
しかしながらよほど深刻なケースでない限り、ご自身の取り組みで改善できる可能性が高いと思います。今回はさほど深刻ではない場合にできる方法をお伝えしましょう。
2.妊娠中〜出産後の骨盤の痛みは姿勢で改善する可能性が高い
これから出産するママさんたちは、出産後の痛みのことを聞くと不安になるかもしれません。しかし産婦人科医の米原先生によると姿勢に気をつけることで、多くの心配ごとが解消する可能性が高いようです。
私の経験では多くのお母さん方は出産後も何事もなく生活できています。その中でも特に調子がいいな、と感じられるのは、妊娠前から姿勢に気をつけていた方のように思います。例えば、ヨガの先生などで「見事だな~、やはり普段からの意識が高いと体は維持されるんだな~」と感じたことが何度かあります。(米原先生・談)
良い姿勢を取ることは、次のようなメリットがあります。
・カラダへの負担が最も少ない
・深層筋肉が活性化されることで、カラダの機能が健全に保たれる
・骨盤の安定化に直結するので、健全な出産が可能になる
大きくカラダが変化するのは、妊娠後半から出産後です。この時期に骨盤周辺の痛みが生じやすいのです。それはカラダの重心が変わったり姿勢が変化しやすいからと考えられます。
妊娠中から産後を通して、姿勢を良くし骨盤を安定させることができていれば、カラダが変化しても調子良く過ごせる可能性が高くなるでしょう。
- ふだん姿勢の意識付けをあまりしていなかった方が、焦って急に各種のトレーニングを行うと、切迫早産の危険性が高まります。これは今まで使ってこなかった腹筋を使いすぎたり、変に使ってしまい、イキミに近い状態になりえるからです。まずはカラダに負担の少ない“姿勢改善の意識づけ”から取り組んでください。
3.妊娠中〜出産後の骨盤周辺痛の解決法は
米原先生は、妊娠中の腰痛などに対しては坐骨で座る座り方を勧めていることが多いそうです。
妊娠中の腰痛は、卵巣腫瘍や尿路結石症など骨盤内臓器の症状の可能性もありますので、まずはそれらを確認しています。その上で骨盤の歪みや姿勢によるものと思われる方には、坐骨で座る座り方を勧めています。(その病院で扱っていればトコちゃんベルトも勧めます) 米原先生談
これは、お尻にある座った時に座面を捉えるとんがった骨がしっかり椅子に当たるようになる座り方です。
妊娠中は、子宮の増大化だけではなく重心も変化していきます。それに伴い徐々に姿勢も変化しす。おなかが大きくなっても良い姿勢で座ることで痛みを感じなくなる方が多いとのことです。
出産後も重心が変わることで姿勢が変化していくはずです。しかしながら妊娠中の反り腰姿勢などが身に付いてしまって、出産後もその姿勢のままでいることでトラブルが起きることが考えられるのです。
いずれにしても坐骨で座ることで、良い姿勢がとれ骨盤の安定化につながります。坐骨で座る方法としては、お伝えした通りお尻の骨が椅子に当たるようにするだけです。
その際に、反り腰にならないように注意します。また、当たっていると思っても後ろ側だけが当たっている時は猫背の可能性もありますので注意してください。
立った姿勢での「骨盤を立てる」状態については、当ブログ別記事「骨盤を立てるって何?骨盤を立てた方が良い理由と方法」にてご紹介していますので、そちらも参考にしてみてください。
4.骨盤周辺の強い痛みがある場合はすぐに受診する
深刻な出産では、実際に尾てい骨変形を起こしたり骨盤の歪みを生じたり、過度な靭帯の伸びが戻らずに痛みを生じることがありえます。
私の経験では、やや大きめの赤ちゃんなどで長引いた分娩の後で、結果的にお母さんの骨盤が大きく開き、入院中から強い痛みを訴えることがありました。整形外科を受診したら、骨盤が開きすぎて恥骨が離れていたのです。恥骨間の靭帯が伸びた状態ですが、整形外科的には骨盤骨折に値することもあるそうです。
なので、左右対称に伸びた靭帯は産後経過の中で速やかに元にもどることも多いですが、妊娠前からの状況など左右の歪みがある場合、特に部分的に余計に負担がかかった靭帯の緩みや歪みなどは、修復に時間を要する可能性が大きいのです、ケースによっては整形外科など通院しながらも数ヶ月~数年単位の方もいらっしゃいました。(米原先生・談)
出産後に強い痛みが続く場合は、早めに整形外科医の受診をお勧めします。
5.妊娠前期・中期・後期でお腹や骨盤周辺、お尻が痛くなるのはなぜか
妊娠していない時期の通常の月経では子宮の大きさが増大することはありません。しかし、月経血を出すための子宮収縮でさえ痛みを伴うでしょう。それが妊娠が始まると数mmの増大をするわけですから、強い痛みや違和感などを伴うことが多いです。
お腹の中にある臓器は柔らかいので、そう簡単には骨の変形まで生じさせることはないと言えます。
「お腹が大きくなるに従って、尾てい骨の角度が変わって痛い」と思われる方もいるかもしれませんが、尾てい骨の角度は妊娠前から出産後に関係なくほとんど変わりません。個人差はあるので、もともと角度がきつくて中に入りがちという方はいます。
尾てい骨ではなくて、他の要因が痛みを感じさせる可能性があります。赤ちゃんの発育とともに子宮が徐々に大きくなるにつれて、子宮を支えている靭帯は引っ張られる状態になりやすくなります。そうすると痛みを感じたりすることもあります。
尾てい骨から骨盤底部を通って恥骨までの間には、骨盤底筋(こつばんていきん)という筋肉群があります。この骨盤底筋を柔軟に保っておくためには、姿勢や呼吸が大切です。
6.陣痛・分娩・帝王切開の影響で尾てい骨周辺が痛む原因と解消法
陣痛〜出産に至る経験の後に、「尾てい骨が痛い」と訴える方がいます。しかし、陣痛というよりも出産時の衝撃で痛まれる方がほとんどでしょう。
出産の経過は様々です。母体の姿勢や体重だけでなく、胎児の大きさや産道の通り方、吸引分娩の有無など二つとして同じ出産はないと言えます。このような赤ちゃんの出産過程で、骨盤周辺へ影響する可能性はとても大きいと思います。
出産時はどうしても仕方ありません。むしろ出産後にいつまでも痛みが続かないようにする必要があると思います。
帝王切開での出産は、産道へのアプローチが経腟分娩と比べるとかなり少ないので、手術そのものの影響は考えにくいです。あるとすれば、術後の前屈みの姿勢の影響でしょうか。帝王切開の方は、出産後に創部を守ろうとする前屈みの姿勢になりがちになることがあるのかもしれません。(米原先生・談)
このような出産後の痛みについても、骨盤を立てた姿勢で立ったり座ったりすることをおすすめします。よほど尾てい骨が変形していない限りは、なるべく良い姿勢をとることで改善する可能性が高いと考えられます。
7.切迫早産の経験から尾てい骨や骨盤の痛みを感じる方は
切迫早産とは、早産の一歩手前で予定より早く赤ちゃんが出てきそうになることです。子宮収縮が頻繁に起こり、痛みを感じ、子宮口が開きはじめています。
切迫早産となってしまうと、症状の程度によりますが、安静を要します。
大変だった例では、数ヶ月入院しベッド上で安静を必要とされた方がいました。この方は腰痛のみならず足腰の力まで落ちてしまったのです。
寝る状態が長くなると、それだけでも骨盤の歪みは生じやすくなってしまいますし、筋力も落ちるため立っている時や座っている時の姿勢を適切にキープすることが難しくなってしまいます。風邪などでも2、3日寝込むだけで筋力は低下しやすいと言われていますが、妊娠中は特に腹部が大きくなり、体重など変化も大きいですので、想像以上に速くその衰えが進んでいました。(米原先生・談)
このように姿勢が崩れることで、尾てい骨が椅子に当たりやすくなるような姿勢になってしまったり、骨盤の安定化が悪くなって腰痛を発症することは十分に考えられます。
8.授乳の影響で尾てい骨が痛いと感じる方は
「授乳をするようになるとホルモンバランスが崩れて尾てい骨などの痛みを感じるようになる」という説明をされることがあります。これについても米原先生は姿勢の影響が大きいのではないか、と話しています。
授乳についてはホルモンの影響というよりも、これまでにない姿勢をとりがちな環境となるため、骨盤位置や座り方などが大きく変化する可能性があるのではないでしょうか。(米原先生・談)
授乳中はどうしても前屈みになりがちです。抱っこひもでは前にかかる子どもの体重を支えるために反り腰になる可能性がありますし、おんぶ紐では前屈み姿勢をとってしまいます。
このような姿勢の影響が、腰や骨盤周辺に痛みを生じさせる可能性は大いにあります。出産後こそ、ぜひ姿勢を大事になさることをおすすめします。
9.子宮内膜症、子宮筋腫の影響で骨盤や尾てい骨周辺が痛くなるのか
子宮内膜症や子宮筋腫の状況は様々ですが、軽いものや中等度のものは基本的には尾てい骨周辺の痛みには影響しない可能性が高いです。
子宮内膜症はひどい場合は腸や骨近くまで癒着を起こすことがあります。そこまで進行すると、尾てい骨周辺の痛みを感じるかもしれませんが、それほどの重症な子宮内膜症では、まずお尻の骨の痛みよりも腹痛や排便痛や性交痛など、いろいろな痛みを感じているはずです。治療を開始していれば尾てい骨への影響も解消されていきますので、関係性は低いと考えられます。
また、子宮筋腫の場合は、子宮頸部という下方にできる珍しいものがよほど大きくならないと骨まで影響しないでしょう。重度の方ですと、こちらも他の症状が目立って感じられる可能性が高いです。
尾てい骨周辺の痛みから子宮筋腫を疑うのではなく、姿勢の可能性を考えたほうがいいかもしれません。もちろん子宮筋腫を考えられるのであれば受診して検査を受けられることをおすすめします。
10.筋肉弛緩ホルモン「リラキシン」の影響は?
リラキシンは出産時に子宮を広がりやすくさせるために靭帯をゆるめる(弛緩させる)ホルモンです。妊娠末期になると分泌されます。骨盤まわりのみならず全身の筋肉を緩めると考えられています。
このリラキシンのせいで、筋肉や靭帯が正常な状態をキープできなくなり、出産後もその影響を引きずって痛みを感じることがあるとの説明をされているケースがあります。
これについても米原先生は姿勢の影響のほうが大きいのではないかと感じられています。
このような妊娠におけるカラダやホルモンの変化そのものが腰痛を起こすというよりも、やはり骨格の安定さが関係していると思います。
リラキシンの影響も多少はあるかもしれませんが、いろいろな方法の骨盤矯正で症状が改善する方が多いのです。やはり私は妊娠に伴う重心位置の変化による姿勢の影響が原因になりやすいと思っていますし、そう説明することが多いです。
その他の出産に関する腰痛や坐骨神経痛も、出産に伴う骨盤の歪みと思われるかもしれませんが、肩こりや後頭部痛などと同じで偏った筋肉の使い方や、筋肉が収縮しっぱなしであることが原因であることも少なくないと感じています。(米原先生・談)
11.まとめ・おすすめの解消法
妊娠前から出産後までの「姿勢」の大切さをお伝えしました。姿勢を良くすることは、骨盤を内側から引締めて安定させることになります。米原先生ももっともおすすめする方法です。
現在は骨盤底筋トレーニングの方法は数多くありますが、いろいろと考えすぎてしまい、効果的な動きを引き出しにくいことも多いかと思います。先述した通り、腹筋を使いすぎてしまったり、お尻の筋肉ばかり使ってしまうことがあります。
意識せずに骨盤を締められるツールとしては、有名な「トコちゃんベルト」があります。骨盤位置を整えて正しく巻く必要がありますので、トコちゃんベルトを取り扱っているクリニックや病院の看護師さんや助産師さんに正しい付け方を教わっていただければと思います。
妊娠前と出産後12週間経過後は、「ひめトレ」がおすすめです。これは私も使用している骨盤底筋トレーニングで、椅子に置いてその上に座り簡単な呼吸やエクササイズで、骨盤底筋を始めとする体幹のインナーユニットが活性化できます。(米原先生・談)
ストレッチポール®ひめトレは当ブログを運営する㈱LPNが製造販売する骨盤底筋用トレーニングツールです。妊娠前や産後三か月以降の方のために、日本コアコンディショニング協会がエクササイズを開発し普及を進めています。
これを使うことで坐骨で座る感覚もはっきりわかりますし、姿勢改善やウエストサイズダウンなどのメリットもありますので、妊娠前や産後三か月以降の方におすすめできるツールエクササイズです。
いずれにしても、「出産のせいでカラダが変わった」とか、「子どもを産んでからおかしくなった」などとネガティブに捉えず、これを機会にぜひ改善のとりくみをなさってください。まずは姿勢を意識し、座り方を変えるところから始めてみましょう。今からでも大いに改善します。
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