手や足のしびれ  7つの原因・「イグノーベル賞」新見正則先生寄稿

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Woman holding and pressing or touching her hand while working with laptop in the office. Numbness or pain on hand concept.

手や足先にジンジン…。

手足のしびれを引き起こすものにはいろいろな原因があります。外科の権威である新見正則先生(慶應義塾大学医学部〜オクスフォード大)にその原因をお伺いしました。

masanoriniimi新見正則(にいみ・まさのり)
日本外科学会 専門医・指導医ほか多数。
慶應義塾大学医学部〜英国オックスフォード大学医学部博士課程 2013年ハーバード大学にてイグノーベル賞受賞 帝京大学医学部附属病院において国内で初めて保健診療のセカンドオピニオン外来(外科一般)を開設し、その普及に尽力してきたパイオニア。テレビや新聞などメディアでの紹介も多数。

1.しびれの原因とは

しびれは、感覚の経路、つまり感覚受容器から末梢神経、脊髄、大脳へ至る感覚の伝導路のいずれかに障害がおきると出現します。感覚の受容器は視覚の目、嗅覚の鼻、聴覚の耳、味覚の舌、平衡感覚の三半規管など特殊なものはありますが、体中に分布しているのは体性感覚です。体性感覚の受容体は、触覚、圧覚、痛覚、温覚、冷覚などがありますが、しびれに特異的な受容体はなく、これらのそれ以外に脳に感覚情報を送る神経の障害、そして感覚情報を処理する脳の異常もしびれの原因になるのです。

reflex Arc

感覚を伝達し、運動をおこなうための神経回路


2.しびれは人によって違う

「しびれ」に関する訴えは多種多様です。なぜ多種多様かというと、しびれは本人が自覚する感覚で第三者が客観的に捉えることはできません。本人の言葉でしか表現されない領域なのです。つまり意思疎通が出来ない状況で、また意思疎通が出来ない年齢ではしびれは訴えになり得ません。

人が生きていく中で、外界からの刺激を受けて、そして日頃は感じない感覚を理解できるようになると、ある種の特異な感覚をしびれと表現するのです。わが国では以前は畳の生活では、床に座る文化でした。すると当然ながら正座をする機会が多いのです。正座をすれば足がしびれます。すると「長時間正座をしたときの違和感がしびれだよ」と教育を受けると、しびれという概念が頭に形成されます。

「同じような感覚は肘を机にぶつけたときも生じるな。それもしびれなんだな。」と経験知として蓄積されていきます。現代社会になって椅子とテーブルの文化が普及し、正座などしたこともない人達が増えると、しびれという言葉もどこまで共通認識として共有されているかを疑問に思うこともあります。ですから、日常とは違う感覚をある人は「しびれ」と表現し、ある人は「痛み」と表現し、またある人は「違和感」として捉えます。

正座する文化は絶滅?に瀕しているとすると、しびれを認識できる共通のイベントはなんでしょうか。和式のトイレも長く座るとしびれます。しかし、和式のトイレは正座以上に絶滅に瀕しています。腕枕を長くするとしびれます。羨ましいね。英語にはハネムーン麻痺(Honeymoon palsy)という言葉もありますが、こちらはもっと頻度が少なそうです。

すると日本文化継承のためにも、また、しびれという感覚を共有するためにも、是非とも足がしびれる程の正座を一度は経験してください。それをしびれと認識するのがもっとも共通言語化できる方法と今日でも思っています。

Young attractive woman in vajrasana pose, closeup of legs

正座は慣れていないと簡単にしびれを引き起こします

3.しびれの発生する原理

そもそも感覚は体中に張り巡らされた感覚情報の処理末端から、電気信号として神経を介して脊髄に集まり、それが脊髄の中を経由して脳に到り、脳で感覚として処理されます。脊髄は束ねられた電線のイメージです。その電気刺激を脳が処理する部分は側頭葉の感覚野という部分にあります。感覚野の前よりに、運動野があり、ここからの刺激は、今度は感覚とは逆向きの電気刺激となって、脊髄を通り、そして末梢の筋肉を動かす電気信号になるのです。

体中には無数のいろいろなスイッチがあり、ある程度以上の感覚刺激を受けるとスイッチがONとなり、その電気信号が脊髄を経由して大脳に向かい、そして大脳の感覚野に到り、脳のコンピューターで処理されているというイメージです。そして大脳のコンピュータからの指令が、大脳の運動野から電気刺激となって脊髄を経由して、そして末梢の筋肉に到り、筋肉は収縮するのです。感覚の電気刺激と運動の電気刺激は別の神経、つまり別の電線を使用しています。

上記はペンフィールド(1891〜1976)というカナダの脳神経外科医によって1933年に確認されました。ペンフィールドはてんかん治療のために行われていた開頭術の時に、大脳を電気刺激するといろいろなことが起こることがわかり、その起こり方を丹念に調べていったのです。そして大脳の機能には局在があることを知りました。そして大脳のある部分を刺激すると右手の親指が動くとか、この部分を刺激すると左の足が動くとかを丹念に調べ上げたのです。同じように末梢の刺激が脳のどこに投影されるかを調べると感覚野の局在を脳に描くことができたのです。

penfield

ペンフィールドのホムンクルスの図

4.しびれを引きおこすもの・血管編

さて、お題の肘から指のしびれの解説に移ります。

4−1.【阻血による神経障害】 (急性動脈閉塞症、慢性動脈閉塞)

正座とおなじ阻血によるしびれは前述の腕枕のしびれが該当します。腕枕のしびれのような原因が明らかな阻血による、そして一時的なしびれはまったく問題ありません。しかし、腕枕のしびれで一晩中の虚血が神経に及ぶと回復が稀に困難になることがあります。

最初はしびれる程度ですが、さらに阻血が続くと痛みに変わり、最後は激痛になります。そしてその後この激痛は楽になっていきます。それは神経がほぼ機能しなくなるので、しびれや痛みを脳に伝えることができなくなるのです。つまり神経が半殺しの状態で人はもっとも痛みを強く感じるということです。これは手の動脈が急激に詰まる、つまり急性動脈閉塞症を起こした患者さんがほぼ共通して教えてくれる症状の経過です。

また、慢性の動脈閉塞であるバージャー病でもしびれを訴えます。全身の血管を侵す膠原病でも手のしびれを訴えることがあります。これも慢性動脈閉塞による症状です。

5.しびれを引き起こすもの・神経編

次は神経の圧迫によるしびれや痛みです。こちらは経過が長いことが多いのです。また体位や手足の位置で神経の障害の程度が変わります。ある姿勢で悪化するとか、特定の手足の向きで悪化するとかです。伝達通路の電気信号に異常を来すのですが、大切なことは脳が痛みを感じる部分はその神経のセンサー(受容体)が分布している場所です。大切なことは、圧迫されている場所としびれる場所が異なるのです。

5−1.【手根管症候群(正中神経麻痺)】

手根管症候群とは正中神経が手首の靱帯の圧迫で障害を受けます。正中神経のセンサーは親指と人差し指、中指、そして薬指の親指側に存在しますので、その部分が痛い時は正中神経麻痺が疑われます。またその一部が痛くても正中神経麻痺が疑われます。ところが、小指が痛いとか、反対の手が痛いとか、足が痛いという訴えがあると、手根管症候群だけで説明することは不可能です。

5−2.【肘部管症候群(尺骨神経麻痺)】

肘部管症候群とは尺骨神経が肘の内側の部分で障害を受けます。肘を机などにぶつけてしびれる時の神経は通常尺骨神経です。尺骨神経のセンサーは小指と薬指の小指側に分布していますので、その領域の異常感覚では、尺骨神経麻痺を疑います。そして尺骨神経は肘の靱帯で圧迫を受けることが多いのです。

5−3.【橈骨神経麻痺】

手には手のひらと手の甲があります。親指と人差し指と中指の手の甲側がしびれると橈骨神経麻痺の可能性もあります。手には正中神経と、尺骨神経、そして橈骨神経のセンサーが分布しているのです。また筋肉を動かす指令もこの神経内にある感覚とは別の運動を司る電線で電気刺激が運ばれます。ですから、感覚異常部に相当する筋肉の萎縮や機能障害も症状が長期化すると併存します。

5−4.【胸郭出口症候群】

人間は手や腕を使うことで他の動物よりも高度の知能を持ったとも言われています。上肢の運動領域は本当に広いのです。手、前腕(肘より先)、上腕(肘より上)、そして肩の骨と関節の構造は芸術的と思っています。

そんなたくさんの骨や関節を動かすために多くの筋肉が骨に付着し、そして筋肉に指令を送るための神経も多数存在します。そしてこの多数の神経が第一肋骨中央付近で狭いトンネル状の部位をくぐり抜けます。この狭いトンネルを、上肢を栄養する動脈、老廃物を肺と腎臓に戻す静脈、そして神経が通り抜けるのです。

そんな狭い部分に狭窄が生じると動脈や静脈や神経の圧迫症状が生じます。これを胸郭出口症候群といいます。

5−5.【脊髄の障害】 (頸椎症性神経根症、頸椎症性脊髄症)

神経は脊椎(いわゆる背骨)の中の脊髄という神経の束が収納されている部分を通って、脳に到ります。この脊椎に入る手前で狭くなるのです。頸椎症性神経根症と呼ばれます。頸椎症性神経根症は上肢や手のしびれを含めて神経障害を生じます。

また、脊椎という骨の中に神経の束があるので、この骨の入れ物の内腔が狭くなれば、神経を圧迫してしまいます。これが頸椎症性脊髄症と呼ばれます。頸椎症性脊髄症では、上肢や手の神経の他、下肢や足の神経も圧迫される可能性があるので、歩行障害や、場合によっては膀胱直腸障害を招くこともあります。後縦靱帯硬化症椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄症などはどれも頸椎内腔を狭窄する可能性があるのでしびれの原因になります。

背骨、特に頸の背骨(頸椎)が真っ直ぐな状態をストレートネックと称しています。このストレートネックも神経を圧迫することがあります。

脊椎は魚にもあります。もしも興味があれば、アジやサンマの開きを食べるときに背骨を観察してください。背骨を外すと、その背骨の中に糸のような繊維状のものが確認できます。それが脊髄ですよ。

Businessman Looking At Computer

首が前方に偏移することで神経を圧迫することにも繋がります

6.【脳の障害】

感覚を司る脳の障害でもしびれや痛みを生じます。脳腫瘍、脳炎、脳梗塞、脳出血、多発性硬化症などがしびれの原因になります。ここでは詳しくは語りません。

7.【その他】 (全身の病気の一部として)

最近は抗がん剤によるしびれが少なくありません。むしろ有効な抗がん剤ほどしびれが副作用のこともあります。白金製剤やタキサン系の抗がん剤と呼ばれるもので、手や足のしびれは高頻度に出現します。薬剤による神経障害の代表例です。

糖尿病は全身の神経を障害します。知覚神経も障害し、全身疾患ですから、いろいろな部分のしびれを併発します。また筋肉の痙攣様の反応をしびれと表現することもあります。過換気症候群によるしびれがそれにあたります。過換気症候群はストレスやパニックで過呼吸となり、その結果二酸化炭素が必要以上に肺から体外に排出されます。すると血液がアルカリ性になるので、全身のしびれや痙攣を生じるのです。自律神経失調症更年期障害がベースにあって、ストレスが加わると過換気症候群症状をすぐに呈して、しびれを自覚することがあります。

また電解質異常、例えば血液中のカルシウムが低下する低カルシウム血症では筋肉の興奮性が亢進するので、手のしびれを感じることもあります。また帯状疱疹、ギラン・バレー症候群、アルコール性神経障害、多発性神経炎、アミロイドーシスなど神経に炎症を及ぼす病気はすべてしびれる可能性があるのです。

8.まとめ

しびれを引き起こす原因について新見先生に伺いました。大きく分けて8種類、文中ではさらに細かく分類されていました。また、検査をしても原因がよくわからない「しびれ」も少なくないそうです。

先生が主宰するサイト「漢方.jp」では、原因がよくわからなくても試してみたい漢方薬を紹介しています。

気になる方はそちらも参考になさってはいかがでしょうか。

しびれるときの対処法【漢方医が解説】(漢方.jp)

 

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