原因不明の腰痛について・よくわからない腰痛の不安を一掃する全知識

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「腰痛を発症して整形外科に行ったら、原因不明と診断された…」。

残念ですがよくあることです。腰痛は、疾患ではなく症状です。何か原因があって痛みを引き起こしているのです。ですからその原因がわかれば対処の方法があると思うでしょう。

痛い思いをして、時間とお金を使って病院に行っても「原因不明」では不安ばかり増大します。

しかしながら、人のカラダは複雑で、21世紀になっても多くの一般的な症状や疾患の正体を医学はつかめていません。腰痛はその代表的なもので、世界各国でさまざまな研究を行って、その根本的なメカニズムをつかもうとしています。

とはいえ、何か少しでも安心したいと思うでしょう。そこでこの記事では、原因不明の腰痛について解説致します。日本の整形外科の先生が拠り所とする「腰痛ガイドライン2012」を始め、米国や欧州の研究発表などから現在の医学の知見をお伝えしますので、「原因不明の腰痛の原因を知りたい!」という方はぜひ参考になさってください。


1.主な腰痛の原因とは

原因がはっきりする腰痛とは、検査の結果、断定されるものです。検査には画像検査はもちろん問診や触診、動作チェック、血液検査なども含まれます。

下記の5つのものに分類されます。

脊椎由来腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、分離性脊椎すべり症、骨粗しょう症、化膿性脊椎炎、脊椎変形など
神経由来脊髄腫瘍、馬尾腫瘍など
内臓由来腎尿路系疾患(腎結石、尿路結石、腎盂腎炎など)、婦人科系疾患(子宮内膜症など)など
血管由来腹部大動脈瘤、解離性大動脈瘤など
心因性うつ、ヒステリーなど

原因がはっきりするものの中にも、いろいろな可能性を考えさまざまな検査を行ったのちに分かるものもあります。

椎間板ヘルニア

腰椎椎間板ヘルニアは背骨に押されて飛び出た椎間板が神経を刺激したり圧迫することで起きる痛みです。MRIなどで明確にわかります。(飛び出しているのに痛みを感じないケースもあります)


2.原因の明らかな腰痛のなかで特に重篤なもの

以下の3種が特に重要で、迅速な治療が必要です。

腫瘍原発性、転移性脊椎腫瘍
感染化膿性脊椎炎、脊椎カリエスなど
外傷椎体骨折など

さらに神経症状を伴う腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、脊椎すべり症などの腰椎疾患も重篤な疾患として早急に対応すべきものに含まれます。(参考:US National Library of MedicineNational Institutes of Health Diagnosis and treatment of low back pain: a joint clinical practice guideline from the American College of Physicians and the American Pain Society.Chou R1, Qaseem A,Snow V,et al)

内臓由来や血管由来のものについても、原因そのものを対処することで腰痛改善をはかります。

3.ほとんどははっきりしない、原因がわからない腰痛

85パーセント

前述のように一部重大な疾患の恐れがある腰痛もまれにありますが、腰痛の85%は、原因のはっきりしない非特異的腰痛と呼ばれるものです(参照:New England journal of medicine Deyo R A, Weinstein J N. Low back pain. 2001344363–370.370 )。

ですので、急に腰が痛くなって整形外科に行っても、ほとんどの人が「原因不明の腰痛」と診断されると思って間違いないでしょう。もちろん問診(話しを聞くだけ)でこのような診断が下されることはなく、いろいろなチェックをしたうえで判定されます。しかし、レントゲンやMRI、CTなどの画像検査機が使われないことも少なくありません

なぜかというと、これらの検査はカラダに負担をかけることも少なくなく、費用も時間もかかります。実際に各国の腰痛ガイドラインで特に必要と感じられない場合は行わなくてよいとされているのです。

とはいえ、原因不明とされてもその原因を知りたいものです。

たとえば以下のようなものが考えられています。

・筋肉(特にハムストリングス)の柔軟性低下

・体幹筋の弱化

・腰の動きの悪さ

・悪い姿勢

・腰の使いすぎと筋肉量の少なさ

しかしながら、研究ではそのような障害と腰痛との関連を裏付ける予備的なエビデンスが存在するのみで、「これです!」というはっきりした結論は未だありません。

(参照:Low back pain investigations and prognosis: a review Br J Sports Med. 2006 Jun; 40(6): 494–498.)

病院で「原因不明の腰痛」といわれても仕方がないことで、受け入れるしかないと言えるでしょう。

4.医師は重症度を判断して治療方針を決定する

反面、原因の明らかな脊椎疾患である可能性があったり、緊急性を要すと判断されるものは、早急に対応する必要があります。

4−1.重症度や緊急性の判断のもととなるレッドフラッグ

重篤な脊椎疾患(腫瘍、炎症、骨折など)の合併を疑うべき危険信号を「レッドフラッグ」といいます。腰痛でも以下に当てはまる場合は、早急に精密な検査を行って原因となっている疾患の特定を行います。

・20歳以下、または55歳以上

・時間や活動性に関係のない腰痛(安静にしていても痛む)

・胸部痛

・癌、ステロイド治療、HIV感染の既往

・栄養不良

・体重減少

・広範囲に及ぶ神経症状*

・構築性脊柱変形(側彎症・そくわんしょうや後弯症・こうわんしょう)

・発熱

*神経症状:神経の圧迫による痛みやしびれ、麻痺等の症状。脊髄麻痺など重篤な症状の場合は迅速な治療を必要とする

4−2.腰痛の診断から治療まで

腰痛における診察から治療のフローは以下のようなものです。(参考:腰痛ガイドライン2012)

腰痛診断と治療方針のフロー

レッドフラッグや神経症状がない場合は、保存的治療が選ばれるケースが一般的です。

保存的治療とは、手術などの外科的な治療ではなく投薬などの内科的治療が主となり、患者さんの取り組みで改善しようとする治療法です。腰痛の場合の多くは、痛みどめ薬などの内服や運動指導、さらに経過を数日〜数週間観察するというものです。

これは、一般的な腰痛が画像検査(レントゲンやMRI、CTなど)を行っても原因がわからないことがほとんどだからです。もしその必要性があれば、問診や身体検査で判断されます。

その段階で非特異的腰痛の可能性が高いとなれば保存的治療となるのです。ですので、病院に行ったにも関わらずレントゲン検査がなくても、痛み止めの薬だけで「様子を見ましょう」と言われたとしても、決してぞんざいに扱われているわけでも、医師が手を抜いているわけでもありません。

症状が急激に悪化した場合は、早急に再度診察を受けてください。

4−3.神経症状があったとしても、原因不明が多い

受診時に原因が特定される坐骨神経痛は1~2割程度かと思います。

これは当ブログで坐骨神経痛やぎっくり腰関係の記事の監修をしていただいた理学療法士・今関礼章さんの感想です。坐骨神経痛は腰や臀部、脚に発生するビリビリとした神経症状を伴う腰痛です。

今関さんは毎日数十人の患者さんのケアやリハビリ指導をしています。その彼の体験では8〜9割の患者さんは整形外科に来た時には画像検査を行ってもはっきりわからないといいます。

これはなぜかというと、ほとんどの症例が受診時の段階では神経や血管、筋肉の症状(痛みや炎症、腫れなど)が混在していると思われるからだそうです。

このような患者さんには、薬の投与、注射、リハビリを併用して行い、その治療経過から主として引き起こしている原因を特定し治療方針を確定していきます。軽症でしたらその過程で回復することもあると語られていました。

4−4.原因不明の腰痛のほとんどは、数週間以内に改善する

 欧州の腰痛ガイドラインでは、90%の腰痛は6週間(急性期)以内に大きく改善するとしています。また米国で2012年に発表された研究では、これまでの各種の論文33本を分析し、11,677人を集計した結果で、大部分の腰痛はたいてい発症から数週間以内には改善され、40-90%のケースでは6週間後までに完全に改善されるとしています。

この6週間を超えても痛みがある場合は、そこからの改善度合いは低くなり、1年後でも痛みを感じている場合が少なくないと述べています。(参考:US National Library of Medicine  National Institutes of Health The prognosis of acute and persistent low-back pain: a meta-analysis 

原因不明であるからと、必要以上に不安に思わず医師の診断の通りに行動されることをお勧め致します。

また、市販品や民間療法で「腰痛サポーター」や腰痛改善器などもありますが、これも人によっては効果があるものです。

当ブログでは、体幹を鍛えることで腰回りをカラダの中から支える方法をお伝えしていますので、興味のある方はぜひご一読ください。別記事「腰痛ストレッチ・7つの筋肉を活用して慢性腰痛にサヨナラ!

4−5.慢性腰痛には心因性のものが増えている

三か月以上の長期間に渡って原因不明の腰痛を感じる場合は、心理社会性による心因性のものが原因と考えられることも多いです。抑うつ傾向がみられる場合や、会社や周囲の人間関係のストレスや感情の問題が腰痛に大きく影響しているのです。

実際に9,000人以上にインタビュー調査した結果では、うつ病の人の腰痛の倍率はそうでない人に比べて2.88倍の高率でした。(参考:US National Library of Medicine  National Institutes of Health More data on major depression as an antecedent risk factor for first onset of chronic back pain.

このような方には、現状の痛みを取り除く整形外科的治療とともに、精神科によるアプローチも併せて行われる場合があります。福島県立医大の整形外科と精神科で作成した心因性腰痛のストレスチェックがウエブでできますので、気になる方はテストしてみてはいかがでしょうか。

朝日放送:コミコミクリニックアーカイブ 心因性腰痛の可能性をチェック

5.まとめ

原因不明の腰痛についてお伝えしました。急性腰痛の多くは緊急性を要するほど重大ではなく(とはいえぎっくり腰では、身動きするのも大変という状況になることもありますが)、6週間以内に劇的に改善するものがほとんどです。

以前は安静にするように伝えられることも多かったのですが、現在は多くの場合、可能な限り運動することが勧められます。その上で進行したり改善しないようであれば、再度受診され状況をお伝えください。

この記事が参考になれば幸いです。

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