このほど、「腹筋運動は腰痛の原因」という報道がありました。(出典:「腹筋運動」は腰痛の原因 バスケ協会「推奨できない」朝日新聞デジタル)
この見出しをそのまま読み取れば「腹筋運動=危険」という捉え方をしかねませんが、記事の内容は日本バスケットボール協会で行われている指導者養成講習会において「昔ながらの上体起こしをむやみに何度も行うのは危険なので別の方法を紹介している」というものでした。
腹筋を鍛えることは、競技力向上はもちろん腰痛予防など健康増進面においても意義が大きいことです。その腹筋運動として誰もがイメージする「上体起こし」(シットアップ)は目的を間違えたり、専門家の適切な指導がないと危険となることもあります。
記事で紹介されていた方法が、カナダ・ウォータールー大のスチュアート・マックギル名誉教授の提唱する方法で「カールアップ」というやり方です。
しかしこのやり方がよくわからない、という方も多いのではないでしょうか。
そこで当ブログでは、腹筋を鍛えるのに効果的かつ安全な方法として「カールアップ」を始めとしていくつかの方法をご紹介します。
中高生の集団指導で腹筋トレーニングを行いたい方は参考になさってください。
目次
1.なぜ「上体起こし」が危険といわれるのか
腰痛、とりわけ「椎間板ヘルニア」の原因になるといわれるからです。上体起こしによって、背骨の腹側が圧迫され、反対に、背側は飛び出しやすい形になります。これをむやみに繰り返すことで、飛び出た椎間板が神経を刺激し痛みを感じさせることになります。
上体起こしは、力をかけながら、完全にカラダを「くの字」に折り曲げるので危険といわれるゆえんです。
- この動きの前半は腹直筋を鍛え、後半は股関節の屈曲を生む腸腰筋のトレーニングになります。実際のスポーツシーンではこの動きが必要な場合もあります。危険なのは個人差を考えずに「全員100回やれ」というような集団指導です。適切な指導のもとでは有効に活用できる方法です。
2.腹筋トレーニング「カールアップ」の方法
記事で紹介されていた「カールアップ」をご紹介します。カールアップにはいろいろな方法がありますが、ここで取り上げるのは記事で紹介されていたマックギル名誉教授の方法です。
この運動は、背骨が丸く曲がるのを防ぎながら行えます。 つまり脊柱へのリスクが少ない方法なのです。
1・仰向け寝になり、両手を腰の下に入れます。手のひらが床側です。
2・片ヒザを立て、もう片方の足先は天井に向けます。
3・お腹に力を入れ、手の甲を腰で圧迫するようにしながら上半身を持ち上げます。
4・首や背中が丸まらずに、真っすぐのまま起こすことが大事です。角度としては20度くらいまでで大丈夫です。
5・立てたヒザを入れ替えて行います。
3.その他の腰を痛めにくい腹筋トレーニング方法6選
腹筋トレーニングにはいろいろな方法があります。上記の「カールアップ」が最も効果的な方法というわけではありません。
ここではその他の方法を6つご紹介します。これら全てを行う必要はありません。また、人によって効果的であったりそうでないものがあります。一通り行ってみてご自身にフィットするものや、弱さを感じるものを選んで行うようにしてください。
どれがいいか分からない方は、一度専門家の指導を受けられることをおすすめします。
3−1.デッドバグ
「死んだ虫」という意味のエクササイズです。腰が床に接して、曲げることがないので腰痛持ちの方の日頃のトレーニングとしても行えます。反り腰気味の方にも最適です。
1・仰向け寝になり、両手を床に向けて「前ならえ」をします。手のひらは横向きです。
2・両足を持ち上げヒザを90度に曲げます。ヒザから下が床と水平になるようにします。
3・片腕を頭の方向に倒しながら、反対の足を伸ばしながら、床ギリギリまでおろします。
4・交互に行います。まずは10回から。筋力に応じて増加してください。
3−2.インクライン・クランチ
あらかじめ、傾斜の態勢から行うので、腰への負荷が抑えられます。ジムにある斜めの椅子があれば最適ですが、一般的な椅子でも2つ(もしくはロクボクなど)あれば可能です。
1・椅子に浅く腰掛け、足がやや曲がる程度に、もう一つの椅子の背もたれに置きます。
2・カラダがやや「くの字」になるようにします。手は胸の前でクロスでも、後頭部をホールドするのでも構いません。
3.腹部への強化を感じながら、やや上半身を曲げます。じゃっかんの屈曲でも効果を感じられるはずです。
3−3.ジャンダ・シットアップ
一般的な「上体起こし」(シットアップ)は、腹筋が弱い場合、股関節屈筋の力を借りてカラダを起こし曲げてしまう傾向があります。
チェコスロバキアの運動生理学者であるヴラディミール・ジャンダによって開発されたこの方法は、股関節屈筋の助けを減らしたものです。
1・仰向け寝になりヒザを立てます。足先も床から持ち上げ、写真上の姿勢を取ります。腕は胸前クロスでも、後頭部ホールドでも構いません。
2・上半身をやや持ち上げ、腹筋のテンションを最も感じたところで、ゆっくりおろします。
3−4.ヒザ曲げプランク
体幹トレーニングの代表格「プランク」は、体幹力が弱く適切な姿勢を取れないと、かえって腰を痛めることになります。腰痛持ちだったり筋力不足の方は、片膝を曲げて行うことで、腰の負荷を減らしながら腹筋を鍛えることができます。
1・うつぶせ寝になり、ヒジを肩の高さに揃えます。足は肩幅と同程度に開きます。
2・胸と頭部を少し引き上げてヒジを肩の真下に滑らせます。アゴを首に近づけます。
3・足指を床に接します。足裏、カカトが垂直を保持します(内側に倒れたり、外を向かないように)。
4・ヒジから先と、足指に力を入れて末端から浮かせていきます。つられて腰を浮かせ、浮いたカラダが一直線になるようにキープします。(先に腰からあげないように)。ここまでが通常のプランクです。
5・そのまま片ヒザを、床まで落とします。これにより難易度が下がります。ヒザを変えても行ってください。この落とす時に全身の姿勢を変えないことです。プランクが理想的な姿勢でできているかどうか、一度トレーナーに見てもらうことをおすすめします。
3−5.ベンチ・プランク
プランクを行う際に、お腹よりも背中や肩のほうに筋力を使っている感じの方がいます。そのような方は、椅子を使うことで腹筋に特化したプランクが行えます。
1・椅子の座面に両ヒジを乗せます。カラダを真っすぐにしてプランクの態勢をとります
2・ヒザを少し曲げます。今回は床には付けません。
3・息を細く長く吐きながら、お腹に力をかけて全身の一直線をキープします。息を吐ききったら吸ってください。
3−6.レイズド・レッグクランチ
「上体起こし」に似ていますが、ヒザを90度に曲げて、床から離して行うのが「クランチ」です。これも腹筋強化には効果的なトレーニングですが、これでも腰に不安を覚える方がいます。ご紹介する方法は、腰への負荷が少ない方法です。
1・仰向け寝になり、脚を床から持ち上げ、股関節を使ってできるだけ胸側に引きつけます(ここが90度に曲げて行うクランチと違うポイントです)。足関節も90度に曲げておいてください。腕は胸前クロスでも、後頭部ホールドでも構いません。
2・上半身をやや持ち上げ、腹筋のテンションを最も感じたところで、ゆっくりおろします。
4.まとめ
腰への負荷が少ない腹筋トレーニングの方法をご紹介しました。「上体起こし」も決して悪者ではなく適正な方法で行えば効果的に腹筋や股関節屈筋を鍛えることができます。
私たちが提唱するトレーニングの効果を上げる方法は以下の通りです。
・まず適正なアライメント。これは骨盤の傾きや、骨格、姿勢などが理想的なポジションが取れるようにします。
・そのうえでインナーユニットの活性化トレーニングを行います。これにより適切なタイミングで適切な反応を引き出すことができ、機能改善に役立ちます。「ドローイン」のような呼吸法や、「ストレッチポール®ひめトレ」を使用した骨盤底筋トレーニングが代表例です。
・そのうえでトレーニングを行います。これは腹筋に限らず、どのトレーニングでも絶対に考慮したい手順です。これがないとよりリスクが高まると考えます。
お伝えした方法や当ブログの記事を参考にしていただき、ぜひ質の高いトレーニングを行ってください。
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