記憶力をアップさせたい方は老若男女おおぜいいらっしゃいます。
テスト前、高校・大学受験、資格試験を受けられる方、我が子の成績を少しでもアップさせたい方、そして認知症予防を考える中高年世代の方。
要領よく暗記をするための記憶術は古今東西数多く考案されていますが、簡単な語呂合わせ程度ならまだしも、その多くはマスターすることは大変なのではないでしょうか。
筆者も経験がありますが、普段なれない脳の使い方を急に行うととても疲弊するものです。さらに短期的には記憶できますが長期的にはなかなか身に付かないのです。そのためには反復を行うしかないでしょう。
脳を活性化するトレーニングが必要です。活性化しないまま脳に詰め込んでも記憶できる量には限界があるのです。
当ブログでは、脳の権威である医師、長谷川嘉哉先生(認知症専門医)に効果的な記憶力トレーニングの方法をお聞きしてきました。
脳をあまり使わずに、日常の生活習慣に取り入れることで、脳を活性化させる「親ゆび」トレーニング(刺激法)です。脳の基本的原理にフォーカスしたものですので、受験生の方はもちろん、シニアの方の脳の若返りにも使える方法です。実際に先生のクリニックでも効果を発揮しているやり方ですので、ぜひ勉強の合間や余暇に行うようになさってください。
この記事は認知症専門医・長谷川嘉哉先生の監修をいただきました。 医学博士。岐阜県土岐市を中心に9ヶ所のクリニック、介護施設、リハビリ施設を運営する医療法人ブレイングループ理事長。毎月1,000人以上の認知症患者を診療する日本有数の認知症専門医。開業以来5万件以上の訪問診療、500件以上の在宅看取りを実践している。著書に「公務員はなぜ認知症になりやすいのか 」(幻冬舎新書)「患者と家族を支える認知症の本 増補版」 (Gakken)など。認知症予防のブログで専門医ならではの中身の濃い情報を発信している。長谷川嘉哉ブログ〜転ばぬ先の杖 |
目次
1.「指が第二の脳」である理由
まず親ゆびを動かすことで、なぜ脳が活性化するのかについてお伝えします。
1−1.脳の活動野・感覚野いずれも手と指が大部分を占めている
ここに一つの図があります。脳神経外科医のワイルダー・ペンフィールドが現した図で、大脳の感覚野・運動野がカラダのどの部分を担当しているかを表現したものです。
5本の指と手のひらが占めている割合は、感覚野で全体の1/4くらい、運動野では1/3にも及びます。感覚野は「手触りの刺激で脳にインプットする働き」を、運動野は「動きとしてアウトプットする働き」を担っています。
また、指先は脳にまで直結する神経が多く、このことからも、指先の刺激が脳に影響を与えることがご理解頂けるでしょう。
1−2.指を動かせば脳が刺激される
脳は、体の各部を動かす指令を出すだけではなく、体の各部からの刺激を受け、情報を分析したり活用しようとします。その結果、脳そのものも変化します。指を動かせば、脳のなかの広い領域を刺激することができるわけです。
指先をよく動かすことで、脳はその情報をキャッチしようと刺激され、活性化されます。これこそが、医師たちの間で「指は第二の脳である」と言われるゆえんなのです。
昔から「手先を動かすとボケない」と言われることには科学的な理由があったのでした。
1−3.多くの研究で相関関係が明らかになっている
「親ゆびを動かすと脳が活性化する」。これは長谷川先生が認知症専門医として毎月多くの患者さんを診察し、リハビリを行ううちに再発見した事実です。
脳が活性化するとは、血流が増大するということです。これは机上の空論ではなく、これまでの各種の研究発表でも明らかになっています。以下に一つご紹介します。
手指の筋出力と反対側運動野活動との間には相関があることが, 機能的核磁気共鳴装置(fMRI)や陽電子放射型断層撮像法(PET)より知られている. 手指筋出力と運動野活動との関係 : NIRSとfMRIによる比較 南部ら 電子情報通信学会技術研究報告. NC, ニューロコンピューティング 104(758), 25-30, 2005-03-21 一般社団法人電子情報通信学会
また、先生の場合は、ご自身が考案した各種の「親ゆび刺激法」で酸素化ヘモグロビン(酸素を取り込んだ赤色組織)が増大することを明らかにしました。
先生は9つの運動(タスク)を考案しましたが、このいずれを行っても脳への血流が増大したのです。平常時は0.00μmol/L cmですから、この効果がご理解頂けると思います。
いわゆる脳トレや記憶術を行う際にも、このように脳がアクティブになった状態で行うべきなのです。
2.親ゆび刺激法・9つの効果
先生の開発した親指刺激法は簡単に脳を活性化することができます。これを行うことで得られる効果を、先生はその経験から以下のように挙げています。
・認知症を予防する 親ゆびを刺激することで脳の血流が10%アップします。
・健康寿命が長くなる 脳だけではなく全身の血流も改善します。これにより運動機能が向上します。高齢者においても運動習慣は求められますが、ハードな運動が難しい方でも、親ゆび刺激法は行うことができ、運動効果も得られるものです。
・やる気が起きる 親ゆびを使って動かそうと思うだけで意志力、意欲が働きます。無為に過ごしているよりもこの「何かをしよう」という気持ちと行動でやる気スイッチが入ります。
・ストレスを緩和する 指先に集中している神経を刺激することで脳を癒すことができます。これにより自律神経のバランスが整いイライラや不安が和らぎます。
・記憶力を向上させる 脳の血流が向上することで前頭葉の機能低下を抑えることができます。覚えたばかりの言葉が思い出せない、ということを減らします。
・安眠できる 自律神経が整うことで体内時計も正常化します。親ゆび刺激法を行うと脳内の快楽物質が放出されやすくなり、その結果眠りの質も向上します。
・冷え症を改善する 指先には多くの血管が集まっています。また動脈から静脈への分岐点でもあります。指先を刺激することで血液を心臓に戻す働きが高まります。その結果、温まった血液が全身をよく巡るようになるのです。
・日常生活の運動機能が上がる 親ゆび刺激法で意欲が高まり、外出する機会が増えます。結果、運動習慣が増え機能が高まります。
・血圧を安定させる 自律神経が整うもう一つの効果です。
3.厳選!親ゆび刺激法5
いよいよ親ゆび刺激法をご紹介します。先生が開発した9つのうち、5つをご紹介します。
親ゆび曲げ刺激法
イスに座り、背筋を伸ばしてワキを締め、ヒジを脇腹に付けて小さく前ならえをします。
息を吐きながら親ゆびの第一関節を曲げられるところまでゆっくりと曲げます。
息を吸いながらゆっくりと伸ばします。これを10回繰り返します。
開いて閉じて刺激法
同様にワキを締めヒジを脇腹に付けた姿勢で開始します。両手のひらを開き上に向けます。
左右同時にゆっくり息を吐きながら、親ゆびを小ゆびの付け根あたりに近づけます。
ゆっくりと息を吸いながら戻します。10回繰り返してください。
グーパー刺激法
ここからは左右の手で違う動きをします。難易度が上がるので活性効果が高まります。
まず同様の姿勢で、今度は手のひらを正面に向けます。
「右手をパー、左手をグー」「左手をパー、右手をグー」をリズミカルに交互に行います。20回繰り返しましょう。
簡単に行える人は、グーにする場合に親ゆびを出したり中に入れたりを1回おきにやるようにする、など工夫をしてみてください。
イチ、ニ、刺激法
同様の姿勢で行います。
両手のひらをパーにしたまま、「イチ!」と声がけします。同時に左手は親ゆびを中に入れたグーを、右手は外に出したグーをします。
「ニ!」といって両手をパーに戻します。
再度、「イチ!」と声がけし、今度は親ゆびの出し入れを先ほどと逆にします。
この一連の流れを1セットとし、10セット行ってください。
親ゆびのキワ揉み刺激法
ツボ押しに近い要領で血行を促進する方法です。
右手の親ゆびの爪のつけね当たりのポイントを、左手の親ゆびと人指しゆびで「グッ」「グッ」と刺激を加えます。20回繰り返しましょう。
時間があれば他の指も同様に行ってください。
先生の著書「親ゆびを刺激すると脳がたちまち若返りだす!」ではさらに刺激法を紹介しています。またそれぞれのエクササイズで注意するポイントについても解説していますので、詳しく知りたい方はぜひ参考になさってください。(Amazon紹介ページ)
4.親ゆび刺激法の効果を上げて記憶力向上につなげるには
お伝えした方法の効果を上げるには、以下のポイントに留意してみてください。
・基本姿勢に気をつける 椅子に座り背筋を伸ばし、ワキを締めて行います。呼吸は終始止めないようにしましょう。
・どの関節を伸ばし、曲げているか意識する 漫然と動かさずに動きよって受ける刺激を十分に自覚するようにしてください。そのことだけで感覚野が活性化し、刺激法の効果がアップします。
・朝晩一回ずつ行う いずれの運動も起床直後と夜の入浴後に行うようにしてください。日中も思い出したら行うようにしましょう。
5.まとめ
親ゆび刺激で脳を活性化させる記憶力トレーニングの方法をお伝えしました。脳の血流が促進されないまま、暗記や記憶術を開始しても効率が悪いです。またシニアの方や物忘れが気になる方にも、この方法は非常にお勧めできるものです。勉強や仕事、家事の合間にぜひ日常習慣として行ってください。
先生のブログでは認知症予防の知恵についてこまめに発信しています。こちらもぜひ参考になさってください。
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