腸腰筋をトレーニングで強くしたい方は大勢いらっしゃいます。
ランナーの方であれば、これを鍛えることでストライドが大きくなり、ダイナミックに走れるとお思いでしょう。
サッカー選手であれば、ボールを強く蹴ることができるだろうし、股関節のつまりの解消にもなると考えます。
実は高齢者の方の転倒予防にも腸腰筋は大事です。
筋肉の特性としては、比較的大きいので筋出力が高く、すなわちパワーを発揮することができます。
しかし腸腰筋をトレーニングする方法がなかなかわからないのでしょうか?
腸腰筋は、実はトレーナーでもイメージしにくい筋肉で、お伝えするのが難しいのです。また、腰骨に繋がっているので注意してトレーニングしないと腰痛を発症させる危険性があります。
でもどうしたら?
そこでこの記事では、米国公認アスレティックトレーナーで、運動解剖学にも詳しい先生に、適切なトレーニングの仕方を紹介していただきました。
ステップを追ってお伝えしますので、どのような方でも行いやすく効果の高い方法です。腸腰筋を鍛えて、自分のポテンシャルをじゅうぶんに引き出したい方はぜひ参考にして実践してみてください。
この記事は山口淳士が執筆しました。 |
目次
1.腸腰筋とは
腸腰筋というのは、実は3つの筋肉の総称です。「腸腰筋」という筋肉があるわけではないのです。よって、正確に言えば「腸腰筋群」と呼ぶことができるでしょう(今回の記事では、これを踏まえて「腸腰筋」と呼んでいきます)。
腸腰筋は、以下の3つから成り立っています。
・大腰筋
・小腰筋
・腸骨筋
この中で小腰筋は、人によっては生まれつき無い場合もあるので(小腰筋以外にも、生まれつき持っていない人がいる筋肉というのは結構あります)、腸腰筋の中でも特に大事な筋肉が「大腰筋」と「腸骨筋」です。
1−1.腸腰筋の位置
腸腰筋は「股関節の前側」にあります。大腰筋は腰椎(=背骨の腰部分)から始まり、大腿骨(=腿の骨)の股関節に近いところに付着します。腸骨筋は骨盤から始まり、大腰筋と同じ場所に付着します。
1−2.腸腰筋の機能
腸腰筋がとても重要な筋肉である一番の理由が「股関節の屈曲筋の中で一番強い筋肉である」ということです。
股関節屈曲というのはいわゆる「もも上げ」のような動きのこと。さらに、股関節の外旋という動き(=股関節と膝をまっすぐにして足を宙に少し浮かせて、つま先を外側に向けて回旋する動き)にもこの腸腰筋は果たします。
歩いたり、走ったり、ジャンプしたり。運動やスポーツを行う際に「股関節を曲げる」という動作はかなり頻繁に行います。よって、腸腰筋をしっかり使えるようにし、鍛えていくことがパフォーマンスを向上させる重要なポイントの一つになります。
2. 腸腰筋は「鍛える」のではなく「活性化」させる理由
ここからは私の経験によるお話しをさせていただきます。私の経験から、腸腰筋は「鍛える」前にまず「活性化」させた方が良いと感じています。
2−1.腸腰筋を使えていない人が多い
「まず第一に腸腰筋を100%使うことができない人がとても多い」からです。
私が腸腰筋を活性化した方がいいかもなと感じる人は、以下のような方です。
・股関節の付け根に痛みがある人
・股関節を思い切り曲げた時(=膝を抱えて胸に引きつけた時)、股関節に痛みや詰まりを感じる人
・走ったりジャンプの着地で膝が内側に入りやすい人
(腸腰筋が使えていないことだけが理由ではない場合もあります)
腸腰筋は股関節を曲げる動きをする筋肉の中で一番強いという話は上記しました。しかし、一番強いにも関わらず、その筋肉をしっかり使えず、宝の持ち腐れのようになってしまっている人がたくさんいるように思います。
2−2.大腿筋膜張筋が腸腰筋の役目を担っていることが多い
腸腰筋のように股関節を曲げる動きをする筋肉は他にたくさんあります。それは大腿直筋(だいたいちょっきん)、大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)、縫工筋(ほうこうきん)などです。股関節の位置によっては内転筋群(ないてんきんぐん)や臀筋群(でんきんぐん)も股関節を曲げる役割を果たします。この中で、特に働き者で頑張り屋さんな筋肉が、大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん)という筋肉です。
この働き者がいることで、他の筋肉が「大腿筋膜張筋がやってくれるから、俺は働かなくていいや」と仕事をサボり始めてしまいます。結果、股関節を曲げる筋肉の一つである腸腰筋が100%の力を発揮してくれなくなるのです。
というわけで、以下で紹介していきますが、腸腰筋をまずしっかり活性化しないと、腸腰筋トレーニングのつもりが実は大腿筋膜張筋ばかり使っている、ということが起きてしまう可能性があります。
また、この大腿筋膜張筋が働きすぎたり使いすぎたりしてしまうことは、様々な痛みや怪我につながってしまうことがわかっています。大腿筋膜張筋は股関節を曲げる動きとともに股関節の内旋(=外旋の逆の動き)という動きも行います。この内旋の動きが起こりすぎてしまうと、特に走っているときやジャンプの着地などで膝が内側に入りやすくなってしまい、膝のケガにつながってしまいます。
私の経験では、股関節の付け根の痛みを訴える方の多くが、大腿筋膜張筋を使いすぎている気がしています。大腿筋膜張筋をほぐしてゆるめてあげることで、付け根の痛みがなくなっていく方が多いように思います。
3.腸腰筋を働かせるために必ず行うべき2つの準備
腸腰筋がしっかりと働くようにするためには、以下のようなステップを踏む必要があると私は考えています。以下に紹介するモノを順番に行っていくことで、腸腰筋が働きやすい状態に持っていくことができ、効率よく腸腰筋を鍛えることができるようになります。
3−1.頑張りすぎる大腿筋膜張筋を落ち着かせる
大腿筋膜張筋をまず落ち着かせないことには、エクササイズでしっかりと腸腰筋を働かせることができません。大腿筋膜張筋を落ち着かせるために、以下のエクササイズを行いましょう。
●ボールを使ってほぐす方法
●ストレッチポールを使ってほぐす方法
大腿筋膜張筋は、上前腸骨棘(骨盤の前側にある出っ張った骨)にくっついているので、その骨のすぐ下あたりにストレッチポール、ボール、マッサージツールなどを当ててほぐしていきます。 どちらも、ゴロゴロと転がしたり、グーッと指圧されているように押し込んだりして、マッサージをしているイメージで行いましょう。あまりに痛すぎるのは良くありません。「痛気持ちいい」くらいで体重をかけつつ、腕などで支えながら調節しましょう。
3−2.腸腰筋に刺激を与える
大腿筋膜張筋を落ち着かせたところで、次は腸腰筋に刺激を与えていきます。
「働かなくていいやー」とサボっている腸腰筋は、いきなり股関節の屈曲の動きを行っても、働き者の大腿筋膜張筋がすぐに活動を始めてしまうのでうまくいきません。
よってまずは“物理的に” 腸腰筋に刺激を与えていきます。 腸腰筋は三つの筋肉の群である、という話は上記しました。その中の一つである「腸骨筋」は比較的簡単にアプローチできるので、セルフで腸骨筋に刺激を入れる方法をお伝えします。 ※結構痛いので、ゆっくり行いましょう。
先ほど大腿筋膜張筋をほぐした時はゴロゴロと転がしたりグーッと押し込んでいきましたが、今回はボールを当てたまま股関節を動かしていきます。
やり方はまず、上前腸骨棘のすぐ内側(=股関節の前面。わき腹の下あたり)にボールを当ててうつ伏せになります。その状態から、ボールを支点にしてゆっくり脚を持ち上げていき、ゆっくり下ろします。これを10回ほど繰り返しましょう。少し上げるだけで充分なので、腰は反らない程度に行います。
物理的な刺激を与えながら腸腰筋を動かすことで、活性化していきます。
4.いよいよ腸腰筋のエクササイズ!特選法7
大腿筋膜張筋をゆるめて、腸腰筋に刺激を与えて働きやすくしたところで、いよいよ腸腰筋のエクササイズを行います。
4−1.ホールドエクササイズ
まずは腸腰筋をしっかりと意識しながらできるホールドエクササイズから行なっていきます。
4−1−1.座位での腸腰筋ホールド
ベンチなどに座った状態で股関節を90度以上曲げ、膝の上に手を置きます。その状態から膝と手で押し合います。3秒ほど全力で押しあったら一度リラックス。これを繰り返しましょう。上半身はまっすぐをキープ。手と膝で押し合うことに意識がいきすぎてしまうと、猫背になったり身体が前に倒れてきてしまうので注意しましょう。
「2〜3秒押し合う」を左右6回ずつ×2セットずつです。
4−1−2.立位での腸腰筋ホールド
座ってできるようになったら、立って行いましょう。片足でバランスをとりながら行うことになるので、より体幹の安定性やバランス能力も必要になります。座って行なった時と同じように、股関節は90度以上曲げた状態で行いましょう。
これも「2〜3秒押し合う」を左右6回ずつ×2セットずつです。
4−2.ファンクショナルエクササイズ
ホールドエクササイズで使った部分を意識して、次は動きの中で腸腰筋を使っていきます。回数の目安はいずれも左右6回ずつを3セットです。
4−2−1.ヒップリフト・マーチング
仰向けの状態から膝を立てます。両腕は伸ばして身体の横にやや開きましょう。そこから骨盤を持ち上げます(=ヒップリフト)。骨盤の位置をキープしたまま、片足を浮かせて、膝を胸に近づけてきます。
足を持ち上げた時に、骨盤が下に落ちてこないようにキープしましょう。膝を胸に引き上げたら、ゆっくり元の位置に戻し、逆足も同じように行いましょう。
4−2−2.プランク・マーチング
腕立て伏せのポジションからスタート。猫背になったり腰が反ったりしないように姿勢を維持しながら、片方の足を浮かせて膝を胸に近づけていきます。股関節が90度以上曲がるように、しっかり膝を胸に引きつけます。ひきつけた後はゆっくり元の位置に足を戻し、逆側も同じように行います。
4−3. レジスタンス・トレーニング
いよいよ負荷をかけていきます。これも回数の目安はいずれも左右6回ずつを3セットです。
4−3−1.ミニバンド・プランク・マーチング
先ほどのプランク・マーチングとやり方は同じですが、ミニバンドを両足につけて行います。つま先をしっかりスネの方に持ち上げて行いましょう。ミニバンドの負荷に負けて腰が反ってしまったり猫背にならないようにしましょう。
4−3−2.ストレートレッグヒップリフト・マーチング
両足にミニバンドをつけ、仰向けになってベンチやステップ台などの上に置きます。膝は伸ばした状態から骨盤を持ち上げます。後は上記したヒップリフト・マーチングと同様に、骨盤の位置をキープした状態で、膝を胸に引きつけていきます。
4−3−3.スタンディング・ヒップフレクション
細長いロープタイプのチューブを使用します。
最後は立って行い、より実際の運動やスポーツの動きに近づけていきます。最初はまっすぐ立ち、その姿勢を崩さないように膝を持ち上げていきます。腕もしっかり使いましょう。
バランスが取れるようになったら、少しずつ前傾姿勢になって、膝をより前方へ出していきます。短距離走のスタートの時のフォームをイメージして行うといいでしょう。
タン!と足を地面にスピーディーに踏みつけると同時に、チューブのついた反対足を素早く引き上げる動作をマスターしてください。
5.シメのストレッチで緊張を予防する3つの方法
腸腰筋は、固まってしまいやすい傾向にもあります。
理由は、人間は「座る」から。椅子に座ったり、地面に座ったりすると、腸腰筋は短くなります(ストレッチと逆)。その状態が長時間続くと、その筋肉は短いまま伸びづらくなってしまいます。
腸腰筋が短いままだと、股関節が伸びづらくなってしまいます。これによって歩幅が狭くなってしまい、転びやすくなってしまったり(特に高齢者の方)、走る時やスポーツをする際にネガティブな影響を与えてしまうことが研究で分かっています。
以下に腸腰筋の3つのストレッチ方法を紹介します。エクササイズの最後や日常の習慣に取り入れてください。
5−1.横向きでの腸腰筋ストレッチ
下の脚を曲げて行うことで、骨盤の前傾を防ぐことができます。腸骨筋は「骨盤を前傾させる」という作用があるため、骨盤が前傾(反り腰)してしまうとストレッチされません。また、上の脚のつま先を引っ張りながら、お尻を少し収縮させると、さらによく腸腰筋がストレッチされます。
5−2.膝立ちでの腸腰筋ストレッチ1
上記と同様、骨盤が前傾しないように気をつけましょう。なかなか股関節前面のストレッチを感じづらい場合は、前側の足を少し前に置くことで、体重がより前側にかかりやすくなるためしっかりストレッチができるようになるでしょう。
5−3.膝立ちでの腸腰筋ストレッチ2
上記のストレッチの状態から、骨盤の位置を保ったまま腕を上げていきます。腕をあげることで腸腰筋を含めた前面の筋肉や筋膜全体をストレッチさせることができます。
さらに、後ろの足を置く位置を少しだけ外側にすることで、さらに腸腰筋にストレッチをかけることができます。腸腰筋は股関節の外旋という動きにも関わるという話は上記しました。つま先を少し外側に置くことで、股関節が内旋され、より腸腰筋がストレッチされます。
6.まとめ
腸腰筋トレーニングの方法をお伝えしました。
腸腰筋はその性質上、ジムのマシンで鍛えて強くするものというよりは、「うまく使えるようにする」「活性化する」ことが大事です。他の筋肉で代償されることを避け、本来の働きができるようになると、眠っていた力を引き出すことができます。
お伝えした方法を、トレーニングの一環に組み込んでいただけると、あらゆるスポーツでポテンシャルを発揮できるようになります。また、ストレッチの方法は、高齢者の方の歩行訓練にも効果的です。
ぜひ時間をとって行ってください。
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