歯医者さんの診察台に座り「キュイーン!」。これはドリルの音です。この音が好きな方はあまりいないと思います。
虫歯(う蝕ともいいます)は、歯の表層のエナメル質を損傷する程度に進行するとこの器具を使用して削る治療が行われます。
誰しもなるべくお世話になりたくありませんし、こうなる前になんとかしておきたかったと後悔します。
また、お子さんが学校や幼稚園の歯科検診で「虫歯が多いです」「虫歯に進行する可能性があります」と書かれた診断票をもらってくるとドキッとするでしょう。なんとか進行を食い止めたい、我が子には虫歯と無縁であって欲しいと親御さんなら思うはずです。
そこで当ブログでは、本当に効果的な「虫歯予防」の方法を、歯に関する著作が多数ある名医の先生におうかがいしました。「虫歯の痛みはもうイヤ!」と考える方や、なるべく歯を削りたくない方はぜひ参考になさってください。
この記事は歯科医師・森昭先生の監修をいただきました。 竹屋町森歯科クリニック院長(京都府舞鶴市)。人口8万人の同市にて総世帯数の25%がクライアントという人気歯科医。予防歯科、予防医学を重点的にとらえ、唾液やオーラルケアの重要性を全国に発信している。「歯医者を行きたい場所に変える」がモットー。第1回「歯科甲子園」準優勝。著書に『体の不調は「唾液」を増やして解消する』(PHP研究所)『行列のできる歯科医院3』共著(デンタルダイヤモンド社)など。 |
目次
1.虫歯のしくみを知ろう
虫歯はごく初期の段階であれば、ドリルで削り取る治療を行わなくても維持か回復する可能性がありますが、放置しておくと進行しまい、自然にもとの状態に戻ることはありません。早めの予防策が重要です。
虫歯は虫歯菌(ストレプトコッカス・ミュータンス)によって引き起こされます。虫歯菌は、生まれた時には口内には存在しませんが、親やその他の人との接触によって伝染します。
虫歯菌が繁殖する素地となるのが「歯垢」であり「歯石」です。原則、この歯垢と歯石がある場所から虫歯が広がっていきます。虫歯菌は糖質を得ると酸を発生し、歯のエナメル質を溶かします。
虫歯の進行5段階について
上図の通り虫歯が進行していきます。
C0:初期病変。色の変化
虫歯菌により、白や茶色の小さい変色部分が見られる段階です。歯科医では経過観察やフッ化物の塗布のみに留まることも少なくありません。C1に発展する可能性が少なくありませんので、家庭での念入りなオーラルケアが求められます。
C1:表面(エナメル質)のみの虫歯
C0を放置しておくと起こる虫歯の初期段階です。まだ痛みを感じることが少ないので、自分では気付きにくいです。病変部を削り取って詰め物で埋める処置がとられます。
C2:象牙質に達した虫歯
痛みを感じたり、冷たいものを食べた時に「ズキン!」と沁みる感覚があります。肉眼でもはっきりわかる虫歯です。対処は原則的にはC1と同じですが虫歯が一部神経にまで達している時は、痛みを抑えるために神経を抜く処置をとることがあります。
C3:歯髄にまで達した虫歯
歯に比較的大きく深い穴が空き、虫歯菌が神経にまで達している状況です。冷たいものに限らず温かい飲み物でも痛みを感じます。こうなると麻酔注射をし神経を抜いた上で、患部を大きく除去し、人工物の根元を移植するなど大掛かりな処置がとられます。治療にかかる回数も5〜7回を要しますので、時間と費用の負担がよりかかります。詰め物が取れた時などはこの状況になりやすいので、早めに歯科医を受診なさってください。
C4:歯冠が崩壊し、歯根だけが残っている虫歯
常に痛み止めを使用していないと痛みがまぎれないほどです。歯としての機能が失われ、空いた穴に食べカスがつまり余計に不潔になっています。崩壊した歯が口の内側を傷つけることがあります。
こうなると処置としては、抜歯したうえで、入れ歯かブリッジ、インプラントしかありません。保険適用では入れ歯かブリッジしかなく、いずれも不便を感じます。
C2以降はどんなに歯磨きしても自然に治癒することはありません。早めに歯科医の診察を受けられることをおすすめします。
2.ぜひ知っておきたい虫歯予防の原理
こんにちまでに明らかになっている虫歯予防のポイントは下記の通りです。
・乳幼児期は親の唾液からの虫歯菌感染を完全に避ける
・日々こまめに歯垢を除去する
・唾液の分泌を促す
乳幼児はできるだけ生まれた時の虫歯菌がない環境をキープするべきですし、歯が生えてきたら誰でも虫歯菌の温床となる歯垢を除去し続けるべきです。
唾液の分泌が重要なことは、次の理由によります。
実は、虫歯菌は糖質を得て酸を発生し、歯のエナメル質を溶かします。その後唾液によって酸性度が中和され、溶かされた部分は再石灰化がおこなわれ虫歯を自然に防除しているのです。
この図は、ステファン曲線というもので、飲食によって口内の酸性度がどのように変化するかを表したグラフです。飲食物中の糖が歯垢の中の虫歯菌によって分解され酸が生成されると、口中は一気に酸性化します。
図中の臨界pHを下回ると脱灰といってエナメル質が溶け出す状態になります。食後20〜40分かけて唾液の力で中性に戻され、溶け出した部分が再石灰化していくのです。
なかなか自覚できませんが、私たちが飲食するたびにこのプロセスが行われています。虫歯を予防するには、唾液の分泌を多くして脱灰の時間を短くすることが重要です。
ちなみに再石灰化のタイミングで、フッ化物イオンが口中にあると耐酸性の強いフルオロアパタイトが生成されるので、より虫歯になりにくい歯ができるということになります。
3.虫歯予防最善プログラム
お伝えした通り、虫歯予防には3つのキーワードがあります。それは「虫歯菌の増殖を抑える」「歯垢をこまめに取り除く」「耐酸性の強い歯を作る」ことです。
この章ではそのための具体的な方法をお伝えします。
3−1.家庭で日頃行う方法
家庭での積極的な取り組みが虫歯予防の第一歩です。
■乳幼児への口移しやスプーン、箸の共用には注意
親の口内の虫歯菌が子供に入ることを避けます。食事は親子の大切なふれあいの時間なので積極的にスキンシップをとっていただきたいのですが、保護者の方の口内が清潔であることが求められます。虫歯があったり、虫歯になりやすかったり、歯科医院での定期的な検診を受けていない方は、口移し、スプーンや箸の共用は避けたほうが良いでしょう。
■ダラダラ食べをやめる
口の中に食べ物が入っている時間が長いとそれだけ酸化の時間も長いことになります。小さいお子さんでは難しいかもしれませんが、できるだけメリハリのある食事方法が望ましいです。暇つぶしに何かを食べることもよくありません。
■朝起きたらすぐ歯磨きする。寝る直前も
虫歯菌が増殖するのは、口中が乾燥している就寝時です。この時の口内細菌の数は便10gに匹敵するほどです。起床時はすぐに水を飲まず、まずはすすいで吐き出してから飲むようにしてください。
この時の歯磨きは時間をかけて丹念に磨きます。一本ずつ優しくおこなってください。
■食後すぐの歯磨きはやめる
意外に思われるかもしれませんが、再石灰化を促す“唾液”を有効活用するためです。歯磨きをすることで唾液を洗浄してしまい、エナメル質が剥げたままの状態が続きます。歯磨きは前述の朝晩2回で大丈夫です。
■デンタルフロスを積極的に使用する
最優先で考えるべきことが「歯垢の除去」です。歯垢は単純な食べかすではありません。
歯垢を取るのに積極的に活用したいのが、デンタルフロスです。上図のうち「歯と歯の間」「抜けた歯のまわり」「歯と歯が重なったところ」はデンタルフロスを使用しないと歯垢が除去できません。
虫歯の90%は「歯と歯の間」にできるという説もあります。食後は必ずデンタルフロスを活用してください。デンタルフロスを使用することで、唾液の通り道もできます。さらに歯間ブラシも併用することで万全になります。
森先生の推奨する正しい歯の磨き方については別記事「有名歯科医が解説!正しい歯の磨き方で歯垢を驚くほどよく落とす方法」で詳しく解説しています。虫歯や歯周病の予防を考える方はそちらも併せてご一読ください。
■舌回し運動も行う
舌回し運動は、森先生のクリニックでも休憩時間にスタッフ全員で行っているものです。これはメリットが大変多く、舌で歯の表面を磨くことで歯ブラシ代わりになります。舌の上を掃除することにもなり、唾液の分泌も促進されます。舌の筋トレにもなります。
方法は、以下の通りに口の中で舌を回すだけです。
右上ほっぺた側→左上ほっぺた側→左上舌側→右上舌側→右上噛む面→左上噛む面→左下ほっぺた側→右下ほっぺた側→右下舌側→左下舌側→左下噛む面→右下噛む面
最後に唾液を飲み込んで終了です。
ストレッチオーラル®︎は硬くなった表情筋を、口の中から緩めるツールです。表情筋を活性化することで、リンパの流れや唾液の分泌を促進します。表情筋が使えるようになることで、ほうれい線解消やリフトアップといった美容効果が期待できます。さらに、唾液が増えることで口臭予防などのオーラルケアが可能になります。商品は公式ホームページにて詳しく紹介しています。
■歯磨き粉の使用は控えめに。使う時はフッ化物入りのものを
森先生は、唾液磨きができれば歯磨き粉の使用は特に必要性を感じていません(すでに歯周病がある場合を除く)。歯磨き粉は洗浄剤で唾液を流してしまうからです。しかし、フッ化物が口内で歯をコーティングし、また歯を強化する効果があることはわかっており、虫歯予防目的で使用する場合はなるべくフッ化物が高配合されているものを勧めています。その場合も歯ブラシには少量つけ、泡が多くならないようにしてください。
3−2.歯科医におこなってもらう方法
ご家庭では前述の方法をしっかり行っていれば完璧ですが、なかなか理想的にいかないことも多いでしょう。虫歯発生の可能性や、客観的な磨き残しをチェックしてもらうために「かかりつけの歯科医」を持つことをおすすめします。
歯科医では、以下のことを行ってくれます。
・口腔状態チェック
・歯垢&歯石除去
・フッ化物塗布
・シーラント(森先生のクリニックの場合一歯1,000円前後)
・歯磨き指導 等
フッ化物の効果は数ヶ月で減退しますので、少なくとも年に2回は歯科医で歯の健康診断を受けましょう。良い歯科医の見極め方は別記事「失敗したくない!名医が教える“行く前に分かる”歯科医の選び方20」にて詳しく解説していますので参考になさってください。
4.WHOが認定する虫歯予防の基本方針とは
驚かれるかもしれませんが、WHO(世界保健機関)は次のように報告しています。
口腔衛生(歯磨き)と虫歯予防の間には、明確な相関関係を示す強力な相関関係は何もない。WHOテクニカルレポート 2003年
そのうえで虫歯予防に効果があるものに順位を付けています。
1位.水道水のフッ化物濃度適正化(上水道にフッ素化合物を添加するかどうかは、それぞれの国・地域に任せられています)
2位.学校・幼稚園でのフッ化物を使用した洗口。または塗布などの局所応用
3位.学校・歯科医院などでのシーラント(フッ化物を使用した歯のコーティング)
4位.砂糖の摂取制限
5位.歯磨き(フッ化物入りの歯磨き粉使用が条件)
つまり、フッ化物によって歯にバリアーをつくり、虫歯菌を歯につかせないことを第一としています。そのうえで増殖を防ぐ方法を取ることを勧めています。
つまり、食後すぐに歯磨きをしなくてもいいと考えられます。日常のケアは、やはり虫歯菌のすみかである歯垢を取ることと、口腔ケアの専門家である歯科医に定期的に診てもらうことが第一です。
- 「フッ素単体で体内に取り込むと危険ですが、口腔ケアに使用する物はフッ素と他の元素が結びついたフッ化物といい、フッ素とは性質が異なる物です。例えば塩素とナトリウムはそれ自体では危険ですが、結びついて塩化ナトリウムとなることで食塩になります。フッ化物は基本的には安全と考えられていますが、どのような物でも使用における“適正範囲”があります。このフッ化物も摂りすぎることで歯に茶色い斑点ができたりします。しかしながら歯科医の指導のもとで使用されるぶんにはデメリットよりもメリットのほうが大きいと思います」(森先生)
5.まとめ
虫歯予防の方法をお伝えしました。食べ物によって酸性化しエナメル質が溶け出した歯は、唾液によって再石灰化します。唾液の分泌を多くすることができれば、虫歯の可能性が低くなります。また日頃からデンタルフロスを多く活用し、歯垢除去に努めてください。どうしても取りきれない歯垢は必ずあるので、少なくとも半年に一度は歯科医院にて健康診断を受けるようにしましょう。
正しい口腔ケアについて解説されている一冊が、森先生の著書「体の不調は「唾液」を増やして解消する」です。唾液のパワーを知り、生活の質向上を実現したい方はぜひ参考になさってください。
森先生の新著が出版されました。5万部のベストセラー「歯はみがいてはいけない」の続編です。より実践しやすいように、歯磨きの方法やオーラルケアツールの選び方が豊富に紹介されています。ぜひご一読ください。
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