ジャンパーひざ(ジャンパーズニー)は、当初はさほど深刻な傷害であるとは感じないことと思います。
多くの選手は、違和感や痛みを感じながらいずれ治るだろうと放置します。しかしながら、何もしないでいると症状は徐々に深刻化し、慢性化した場合は日常生活にも苦労するほどになり、最悪の場合は手術が必要になります。そうなると半年以上の長期離脱となるなど、選手生命に大きく関わります。
そこでこの記事ではジャンパーひざのトラブルでお困りの方に、当ブログ総監修者の石塚利光氏(米国公認アスレティックトレーナー)に取材した改善方法(ストレッチ、トレーニング、テーピング)をご紹介します。選手の方、指導者の方はここで述べる方法をぜひ参考になさってくださいますようお願い致します。
目次
1.ジャンパーひざとは
ジャンパーひざ(ジャンパーズニー)は、ひざの前面にある膝頭(ひざのお皿)の最下部に発生する痛みです。最初はわずかな痛みや違和感ですが、対策をとらないでいると痛みが強まり、さらには何もしていないときも痛むようになり、歩くことも不可能になる場合もあります。
症状は通常、数週間の期間を経て徐々に悪化していきます。患部を押すと強い痛みを感じることもあります。
十代半ばから二十代のアスリートに起こる可能性が高く、発生しやすいスポーツはバレーボールやバスケットボールなどジャンプ系競技や跳躍系陸上競技などですが、ランニングやサッカーなど他のスポーツでも起こります。
2.ジャンパーひざの段階別深刻度
膝蓋骨腱の損傷の程度の目安は以下の通りです。
第一段階 | トレーニング後のみ痛む |
第二段階 | トレーニングの前後に痛むが、カラダが温まると痛みが治まる |
第三段階 | トレーニング中、常に痛みを感じる。それは通常のパフォーマンスが発揮できない程である |
第四段階 | 日常生活でも常に痛みを感じる |
第二段階程度の選手は非常に多くいると考えられます。
■柔軟性&痛みチェック
腸腰筋や大腿四頭筋の柔軟性チェックを行ってみましょう。硬い人のほうがジャンパーひざになりやすいです。またこの方法は痛みを隠している場合のチェックにもなります。
これはトーマステストと言われる運動指導界では有名な方法です。専門的にはこの動きを見ることで、筋肉の使い方のアンバランス具合などがわかるのですが、ここでは簡単な分析だけをお伝えします。
1)ベッドや机にごく浅く腰掛けます。
2)そのまま両ひざを抱えて後ろに倒れます。
3)片足だけを両手で抱える形になり、抱えてない足を脱力させてブラリと床方向に垂らします。写真のように抱えている足が床に対して水平、垂らした足が垂直にできるようであれば健全です。
4)ひざに痛みがある人や、大腿四頭筋(もも前の筋肉)に柔軟性がない人は垂直に垂らすことができません。足を垂らせない人は腰を反って垂らそうとする(代償運動)こともあるので、トレーナーが足を押さえて腰が動かないようにしています。
3.ジャンパーひざの原因
最大の原因はオーバーユース、すなわち使い過ぎによる疲労の炎症であると言われます。そのために少し休むと感じなくなる人もいます。
原理的には、大腿四頭筋が膝蓋腱を度を超えて引っ張りすぎるから発生するといえます。また、ひざの角度によってテンションがかかりすぎるということもあります。
大腿四頭筋だけを使っていたり、足首に柔軟性がなかったり、ひざが足より前に出る着地姿勢になってたり、X脚やO脚であることで、この一点に集中する負荷が生み出されます。
4.ジャンパーひざを改善するには
もっとも多いのは「オーバーユース」つまり使い過ぎです。もしくは負荷がかかる体勢や筋肉の状態になっているのです。
安静にしたり練習量を控えれば痛みは治まる可能性が高いのですが、選手はなるべく我慢して練習についていこうとします。
それが苦しいほど痛くなるとさすがに練習を休んだり別メニューを行うことになります。しかし元の練習に戻ると再発します。根本的な改善を行っていないからです。
根本的な改善とは、当ブログでは「ひざや足首のアライメント調整」と「関係する筋肉をバランスの良く活用すること」であると考えます。アライメントとは正しいひざや足首の使い方を習得するということです。関係する筋肉は、大腿四頭筋(もも前の筋肉)と臀筋(お尻の筋肉)、ハムストリング(もも裏の筋肉)です。ジャンパーひざの方は大腿四頭筋ばかりを使っているケースが多いように思えます。
【考え方】
・股関節や大腿四頭筋、足首の柔軟性をアップさせる
・お尻とハムストリングの筋肉を鍛える&活用する
・正しい下肢の使い方をマスターする
・X脚やO脚の矯正を行う
【具体的には】
・大腿四頭筋を中心とした下肢のストレッチ(いつでも)
・足首ストレッチ(いつでも)
・大腿四頭筋やハムストリング殿筋のセルフマッサージ(特に練習後)
・正しい姿勢での臀筋とハムストリングのトレーニング(いつでも)
・正しい姿勢をキープするためのトレーニング(いつでも)
・練習前の十分なウォーミングアップ
・オーバーユースを防ぐ練習メニュー作り
となります。
痛みの強い時期は軽いメニューから。弱まるにつれて徐々に負荷を上げていきますが、完全に痛みが治まったとしても日々のルーティンとして組み込むようにしてください。
5.具体的な改善方法
お伝えする方法は、以下の目的のいずれにも活用いただけます。
- 初期の痛みや炎症の抑制
- 股関節や大腿四頭筋、足首などのストレッチ
- 関係する腱や筋肉の強化
- 故障前のトレーニングに戻るための段階的なリハビリ
- 予防と再発防止
5−1.ストレッチ
筋温を上げることなく、急にジャンプ動作を行うとダメージを負います。日々の練習前に十分なストレッチを行ってください。それだけでもジャンパーひざの危険性が減少します。
ご紹介するストレッチは日に3回以上行うことをおすすめします。
■股関節まわし
写真のように、仰向け寝をして両ひざを押さえ、脱力しながら回します。内外それぞれ10〜20回行ってください。
■股関節ストレッチ・1
そのまま、股関節を開くように床方向に押し付けます。息を止めずに10〜30秒を3セット行ってください。
■股関節ストレッチ・2
ドアの枠などを利用すると効果的にストレッチをすることができます。両ひざを曲げないようにして行ってください。片足30秒程度を3セット。
■大腿四頭筋ストレッチ
もも前のストレッチです。ジャンパーひざと診断されるとよく行われる方法ですが、NG例があります。
横向け寝で行うパターンです。上になっている足のもも前が伸びていることを感じてください。
上の写真でのNG例は、脚が外に開いて腰を反ってしまっているケースです。思いっきりストレッチをしようとするとこうなる例が多いので気をつけてください。
ストレッチは形よりも、効かせたい部分にじんわりストレッチがかかっているか感じながら行うことが重要です。
■足首ストレッチ
足首の柔軟性は膝蓋腱に影響を与えることが複数の研究でわかっています。(Malliaras et al. 2006) , (Backman, Danielson 2011)など。
足首の柔軟性は着地の衝撃を柔らかく受け止め分散するために重要なのです。足先を引きつける動き(背屈)と伸ばす動き(底屈)のストレッチを行います。
まずは背屈ストレッチです。壁に手を当てて立ちます。そのままひざを曲げて前と下にストレッチをかけていきます。前に出した足のかかとは浮かないように。この足首がストレッチされる感じをつかんでください。10〜30秒を3セット。
続いて底屈のストレッチです。前に出した足のかかとを少し浮かせます。後ろ足のひざをさらに後ろに出して、足の甲を床につけてストレッチします。効かせるのはこの後ろ足の足首です。10〜30秒を3セット。
■腸腰筋のストレッチ
そのまま股関節深層部の腸腰筋のストレッチも行いましょう。
前足のかかとを床につけ、後ろ足はつま先で立てます。そのまま腰をおろしていくことで後ろ足の腸腰筋のストレッチになります。
5−2.トレーニング
大腿四頭筋ばかりを使ってしまっていて、お尻の筋肉(臀筋・でんきん)やもも裏の筋肉(ハムストリングス)が弱かったり使えていないことが原因として考えられます。
■臀筋のトレーニング・ヒップリフト
仰向け寝になり、両ひざを立てた体勢からお尻を上げます。この時に肩からひざまでが一直線になるようにします。お尻を硬く締めてキープしてください。最初は10秒から。30秒キープを目標にします。2〜3セット。
ストレッチポール®を使うことでさらに効果がアップします。お尻や体幹で足でよく押し付けないと体勢がキープできないからです。可能な方は片足をまっすぐ伸ばしてみましょう。
■チューブレッグカール
チューブを使ったハムストリングスのトレーニングです。
写真のようにうつ伏せ寝になって、片足でチューブを引きます。
まっすぐ引くことが大事です。足が外側に開いてしまうと、ハムストリングスに効果が薄いばかりか姿勢を悪くします。他のトレーニングでも正しい姿勢が重要です。
■ランジ
臀筋やハムストリングスの他、大腿四頭筋など下肢をバランス良く鍛える方法の一つがランジです。
片足を前に出し、もう片足を後ろに下げて立ちます。そのままカラダを上下に動かします。もも前だけではなく、お尻やハムストリングスも使いましょう。慣れないうちはお尻に手を当てながら行うと、お尻の筋肉の動きが分かりやすいです。両足とひざがまっすぐ前を向くようにしてください。
動画でもお伝えします。スピード感の参考になさってください。
■スクワット
臀筋やハムストリングスをはじめ下肢全体を鍛えるシンプルなトレーニングです。
足を肩幅くらいに開き、頭に手を当てて腰を落とします。上半身は頭から腰までが一直線の感覚で。腰は落としすぎずに写真の程度まででOKです。
X脚やO脚で行わないようにします。
■エクセントリックスクワット
かかとの下にストレッチポール®ハーフカットのようなクッションを置いて行うと、ふくらはぎの負荷が減ります。そのぶんお尻やハムストリングスなどを効果的に鍛えることができます。
最初は両足で。ジャンパーひざの改善のためには、なるべくはやく片足でできるようにしましょう。
動画でもご紹介します。
■膝蓋腱のアイソメトリックトレーニング
既にひざに痛みがある際のリハビリ用軽度トレーニングです。
ベンチの上に座り、膝の下にストレッチポール®ハーフカットや丸めたタオル、クッション等を起きます。反対の足はひざを立てておきます。
つま先をこちらにひきつけながら、ひざ裏でストレッチポール®ハーフカットをゆっくり押し付けます。押しつけたあとは力を抜いてリラックスします。
エクササイズ開始時期は5秒間押し付けを8回繰り返し×3セットを。徐々に10秒間押しつけを12回繰り返し×4セットできるように発展させましょう。
翌日痛みを感じたら回数を減らしてください。徐々に片足スクワットに移行できることを目標にしましょう。
■究極のハムストリングストレーニング
ひざに完全に痛みがない場合は試していただきたい、ハムストリングスに特化したトレーニングです。
二人一組で写真の体勢になります。ひざの保護のためにストレッチポール®ハーフカットやクッションを使用してください。
体幹を使ってよくお腹を締め、カラダをまっすぐにして前方に倒れていきます。ゆっくり限界まで倒れていき、堪えきれなくなったらそのまま前に倒れ手で衝撃を受け止めます。倒れた位置から、太ももの後ろの力だけでカラダを起こしてきて垂直に戻ります。
理想は写真右くらいまでに手を使わずに倒れ、戻ってくることです。
5−3.マッサージ
よくマッサージを行ってください。練習後は特に念入りに、です。練習前も真っ先に行うことをおすすめします。
足首からゆっくり上に圧をかけていきます。マッサージオイルやジェルを使うとすべりが良くなるので効果的です。
ちなみにストレッチポール®を使用すると、セルフで効果的なマッサージを行うことができます。
足の全体をゆっくり行ってください(ひざ裏の中心部は筋肉がないので行わないでください)。
5−4.テーピング
痛みを引かせるためにテーピングの方法を調べている方がいます。
私たちとしては、根本的な対処を行っていただきたいと考えていますが、どうしても大一番を前にしてなんとかしたいとお考えの方もいると思います。情報として一般的な方法をお伝えします。
このテーピングの目的は、膝蓋骨腱への負担を軽減することです。これは、ジャンパーひざやオスグッド・シュラッター症候群の痛みに効果的な方法です。バンド型のニーサポーター(ベルト)も同様の効果を目的としています。
【方法】
アンダーラップテープという、通常のテーピングの下にカブレ防止のために巻くものがあります。素材は薄いスポンジやツルツルしたものなど様々です。(写真では前者を使用しています)
これを患部に8〜10回巻きます。患部中心部から下部、さらに上に巻いていって、最後は中心部に戻ります。その後、上と下から中央に寄せ巻いていきます。痛みのある部分へのテンションを感じてください。
ずり落ちそうでなければこのままでもいいですが、心配な方は、通常のホワイトテープやソフトテープ、キネシオテープを使用して上から固定してください。
動画でもご覧頂けます。
このテーピングをすることで、痛みを緩和できる可能性があります。しかしながらジャンパーひざは進行するとこのテーピングのみでは対応できなくなります。また、慢性的な使用は危険性への感覚を麻痺させ、症状を進行させるおそれがあります。常用せずに根本的な解決をはかってください。
6.まとめ・指導者の皆様へ
ジャンパーひざは選手生命に関わるスポーツ傷害です。放置しておくと深刻化し、選手生命を奪ってしまうことにもなりかねません。
平日は練習、週末はより長い時間の練習、もしくは試合や大会等が一年中続くスケジュールになっていることと思います。競争の中で脱落しなかった選手だけが生き残るというシステムでは、不幸になる選手ばかりを生んでしまいます。
選手は少々痛くても我慢をします。たいていの場合は「痛くありません」「大丈夫です」と言うでしょう。特に自主性の高い選手ほどやりすぎてしまう傾向があるようです。
しかしジャンパーひざの場合は徐々に悪化していきますし、早めの対処こそ何よりの回復方法です。
そのために以下の点をぜひ考慮していただきたいと思います。
・ジャンパーひざなどスポーツ傷害の危険性をよく説明する。
・選手にヒアリングする。痛みを数値で表現するアンケートなども有効。
・正しいカラダの使い方やフォームを徹底させる。
・オーバーユースにならないトレーニングメニューを提案する。
・ウォーミングアップやクールダウンの重要性をよく理解し、選手にもトレーニングの一環だと認識させ、その時間を十分に取らせる。
同じメニューを行ってもジャンパーひざにならない選手もいます。そのような選手はトレーニングをどんどん進めることができます。
素質的なものもあるかもしれませんが、カラダの使い方がうまかったり、フォームが綺麗だったり、何か思い当たるところがあると思います。そのような選手やトップアスリートのフォームを参考にして選手にお伝え頂ければと思います。
コンテンツの全部または一部の無断転載を禁止します。(C)Imaginear co.,ltd. co.,ltd. All rights reserved.