新記録樹立やトレーニングに最適なのは朝?夜?【プロが解説】

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Night jogging in the city

練習に効果的な時間帯は1日のなかでいつでしょうか。中高生なら、朝練、昼練、そして夕方などたびたび練習する機会はあると思います。そのなかでもし1つ選ばなければどの時間帯が効果的なのでしょう。

サラリーマン愛好家でも、朝出勤前がいいのか、終業後夜がいいのか。同じメニューでトレーニングするならば効果的な時間を知りたいと思います。

さらに1年後に迫った東京オリンピック。気温や中継のための時差の関係で早朝から深夜まで競技が続きますが、どの時間帯で行われると、世界記録が生まれるチャンスがありそうでしょうか。いつがベストタイミングが調べたトレーニング研究者は少なくありません。そこで今回は米国公認アスレティックトレーナーの山口淳士さんに欧米の文献を精査し、その時間帯を調べてもらいました。

限られた時間でベストな結果を生み出したい方はぜひ参考になさってください。

この記事は山口淳士が執筆しました。
米国公認アスレティックトレーナー(BOC-ATC)/NASM-PES, CES
中京大学体育学部体育科学科卒業後、Bloomsburg University大学院でアスレティックトレーニングを学び、米国公認アスレティックトレーナーの資格を取得。2016年4月に6年間のアメリカ生活を終えて日本に帰国。現在は某大手企業内フィットネスセンターで運動指導などを行っている。また、アスレティックトレーニング系ブログ「CHAINON」と、熱中症ブログ「熱中症ドットコム」を運営している。


1.時間帯で運動能力に違いは?

Young woman using phone at gym.

仕事が終わってからのトレーニング。それは理にかなっているのでしょうか

運動やスポーツパフォーマンスを行う「時間帯」は、パフォーマンス能力を最大限に発揮するための1つの要素として、とても重要であると言われています。Liverpool John Moores UniversityのAtkinson教授は、「陸上競技やサイクリング競技の世界記録のほとんどは午後から夜に出ている」ということをbuffer.comの中で言っています。

また、ChtourouとSouissiによる時間帯別の運動パフォーマンスレベルの違いに関するレビューを見ると、その人の年齢や使われる筋肉群によって違いはあるが、パフォーマンスレベルは時間帯の違いだけで3〜21%ほども変わる、と示しています。では実際に、本当に時間帯の違いだけで、身体的・生理学的にカラダに何か変化は起きているのでしょうか?


2.運動パフォーマンスの能力が最も高まる時間帯は?

数多くの研究によって、1日の中で運動パフォーマンスのピークがやってくるのは「夕方〜夜」であるということがわかっています。

Heishmanらによる研究によると、運動の負荷とその運動を行う時間の長さが同じであれば、午前と午後の運動パフォーマンスを比較すると午後のパフォーマンスのほうが上がる、と示しています。

また、テキサス大学生物医工学教授のMichael SmolenskyはWall Street Journalの中で、怪我のリスクを最小限に抑えつつ身体活動を行うのにベストな時間帯は「15時〜18時」であると言っています。

さらに、University of South Carolina at Columbiaによる概日リズム(体内時計のこと)と水泳パフォーマンスの関係を調べた研究では、被験者全員の睡眠、食事、タイムトライアル間の回復時間を完全にコントロールし、数日をかけて6つの時間帯(2am, 5am, 8am, 11am, 2pm, 5pm, 8pm, 11pmの中から6つ)で全力で200mを泳いでもらい、そのタイムが比較されました。結果、一番タイムが遅かったのは5〜8am、一番タイムが速かったのは8〜11pmでした。

特に概日リズムと関係が強いのは「筋力・パワー系」のパフォーマンスです。Teoらによる研究では、レッグカール(筋力の測定)と勢いをつけた垂直跳び=カウンタームーブメントジャンプ(パワーの測定)を4つの時間帯(朝8時、昼12時、夕方16時、夜20時)に行いました。

結果、一番良かったのは夕方16時に行われたもので、特に朝8時のパフォーマンスとはかなり大きく有意な差が出たと示しています。よって筆者らは、自分のパフォーマンスを最大限に発揮するために、筋力・パワー系種目の練習やトレーニングは朝よりも午後に行うべきである、と結論づけています。

それではなぜ「午後(夕方〜夜)」の時間帯にパフォーマンスのピークを迎えるのでしょうか? 大きな要因の1つは「体温」です。

3.体内時計で変化する体温も関係する?

Close-up hand holding on thermometer for checking patient.

平常時でも人間の体温は1日の中で微小に変動しています

1日24時間の中で、人間の体温は上がったり下がったりしており、これは体内時計(概日リズム)と連動しています。

一般的に、1日の中で体温は夕方〜夜(16時〜21時)頃に一番高くなり、そこをピークにして徐々に下がっていき、身体は寝る準備を整えます。入眠時にはさらに下がり、深夜2〜5時頃が1日の中でもっとも体温は低くなります。起床に向かうに従ってだんだん体温は上がっていき、活動の準備を始めます。つまり、この概日リズムと体温の関係を見ると、起きてから午前中は深部体温が徐々に上がっている段階であり、午後〜夕方にかけてどんどん体温は上昇していき、夜から眠る頃にかけて体温は下がっていく、という流れになっています。

私達は運動をする前にウォームアップ(準備体操)をしますよね?  その主たる目的は「体温を上げるため」です。筋肉の温度が上がることで、筋肉・腱・軟部組織などの柔軟性(伸張性)は向上し、運動神経の伝達速度は上がり、運動パフォーマンスのレベルが向上するとともに、怪我の予防にもつながります。

BerghとEkblomによる研究によれば、筋肉の温度が1℃下がるとパワーは5%低下する(30℃〜39℃の間では)と示されています。University of South Carolina at Columbiaによる研究では、水泳パフォーマンスと体温の関係も調べられました。結果、タイムが一番悪かったのは体温が最も低くなった時間の1時間前と1時間後。逆にタイムが一番良かったのは、体温が一番低くなった時間の9時間後と5時間前、つまり体温が高い時間帯にパフォーマンスは上がったということを示しています。

この概日リズムによる体温の上昇は「自然なウォームアップ」とも言われます。つまり、時間帯によって自然に上昇する体温がウォームアップの代わりになる、ということ。「夕方〜夜」に運動をすることは、すでにウォームアップをして体温が上がった状態で動くことができるため、パフォーマンスレベルが上がるのです。

4.ホルモンとパフォーマンスの関係もある

Sinclairらは、コルチゾールの量とパフォーマンスの低下は互いに関係があるだろう、と示しました。コルチゾールとはストレスに反応して分泌されるホルモンですが、このコルチゾールが1日の中で最高値に達するのは「目覚めた直後」と言われています。

Willisらによると、不安レベルはコルチゾールが増える朝の時間帯に一番高くなることを研究で明らかにしました。また、Kudielkaらによる研究では、Willisらの研究結果と同じく、1日の中で朝の時間帯に心理的なストレスレベルが一番高くなることを明らかにしましたが、それによって、朝の時間帯に運動を行うと疲労感をより感じてしまうようになると示しています。つまり、たとえ同じ強度で朝と午後に運動を行ったとしても、朝のほうが疲れをより感じやすくなるため、結果としてパフォーマンスレベルが下がる可能性がある、と示しています。

一方で、Teoらによる研究では、概日リズムによる体内のテストステロンとコルチゾールの量の変化と筋力・パワーの関係について調べられました。テストステロンとコルチゾールの量は朝8時に最も多くなり、夜20時に最も低くなる、ということが明らかになったものの、これらホルモンの量の変化と筋力・パワーの変化については有意な差は見られなかった、と結論づけています。

5.スキル系の能力向上に効果的な時間帯は

Junior Football Player at Practice

わずかな時間しか練習できない場合はこの記事が参考になるかもしれません

Reillyらが行った、概日リズムとサッカーのスキル能力の関係についての研究によれば、リフティング能力、ドリブルのタイム、ボールを正確な場所に蹴る能力は、朝8時に行うよりも夕方16時に行ったほうが結果が良かったことを示しています。

Edwardsらは、時間帯(8am, 2pm, 8pm)でバドミントンサーブの正確性に違いは出るのか? という研究を行いました。結果、一番正確性が良かったのは2pmでした。この研究では体温も測定されましたが、体温が一番高かったのは8pm。この結果から、スキル系の能力や手先の器用さと体温の高さには関係がない可能性があることを示すとともに、こういった能力は朝起きてから時間がたちすぎると質が低下していくのかもしれない、とEdwardsらは示しています。

6.持久系のパフォーマンスは「午後〜夜」の方が良さそう

概日リズムと持久系能力の関係を調べた研究の結果はまちまちです。つまり、朝の方が良いという研究もあれば、午後〜夜の方が良いという研究もあるということ。この理由についてChtourouとSouissiらは、持久的な運動パフォーマンスは「自発的な疲労感」によって大きく左右されるため、その日の気分やモチベーションによってどこまで頑張るかが変わってしまう、と言っています。よって、パフォーマンス結果が時間帯による差であるとは結論をつけづらい、と示しています。

Liverpool John Moores UniversityのAtkinson教授は、ランナーや自転車競技のアスリートは、朝が最もパフォーマンスレベルが低くなると言っています。また、Albany Medical CollegeのBoris Medarovは、心肺機能は午後17時あたりに最も高くなるとしています。その理由として上げられているのが「体温」と「血圧」です。体温の上昇によってパフォーマンスレベルが向上するという解説は上記しているのでここでは省略しますが、朝起きてから最初の3時間は1日の中で最も血圧が上がっている時間帯である、といいます。

起きてから時間が経つにつれて徐々に血管が開いていくことで血圧が下がっていくとともに、血液がサラサラになるため血流が良くなっていきます。それが酸素の運搬能力を向上させるため、午後の方が持久系の運動を行うことに適しているとしています。また、先程「持久系の運動は自発的な疲労感によってパフォーマンスレベルが左右される」という話をしましたが、Reillyらによる研究では、同じ強度でも疲労を感じるレベルは20時に最も低くなった、と示しています。

以上の結果から、持久系の運動やトレーニングは「午後〜夜」に行うほうが良い、と言えそうです。

7.普段トレーニングをしている時間帯に一番パフォーマンスが上がる

1日の概日リズムを考えると「夕方〜夜」の時間帯に一番体温が上昇し、それがパフォーマンス向上を引き起こすとお伝えしてきましたが、もう1つ知っておくべきことがあります。それは、トレーニングを朝であろうが夜であろうが同じ時間に継続して行っていると、その時間帯に身体が適応して、1日の中でその時間帯に運動パフォーマンス能力が向上するようになる、ということです。これも研究結果から導き出されています。

ChtourouとSouissiによる特定の時間帯でのトレーニング効果に関するレビューには、レジスタンストレーニング(筋トレ)の能力も、有酸素運動の能力も、その人が普段そのトレーニングを行っている時間帯に一番パフォーマンスが高くなった、という結果を示しています。

よってこの研究では、もし大事な試合・大会があり、自分がベストなパフォーマンスを行わなければいけない時間がわかっているのであれば、練習もそれと同じ時間帯にするべきである、としています。普段練習をしている時間帯に身体が適応し、その時間にパフォーマンスが上がるようになります。

8.まとめ

もし1日の中でどの時間帯でも運動をすることが可能なのであれば、夕方〜夜の時間帯に行うことで、自分のパフォーマンス能力を最大限に発揮することができるでしょう。筋トレで考えると、常に自分の筋肉に最大限の負荷をかけていくことで、筋肉は成長していきます。よって、自分のパフォーマンスが最大限に発揮できる時間帯に筋トレをすることが一番効率が良いと考えられます。スキル系のトレーニングや持久系の運動も、午後に行うほうが自分のパフォーマンスを発揮することができ、効率の良いトレーニングができるでしょう。

また、もしあなたやあなたのチームが、ある試合・大会に向けて練習を行っている場合は、その試合が行われる時間帯に練習やトレーニングを行っておくことで、その時間帯にパフォーマンスレベルのピークを持ってくる、ということが可能になります。ぜひ参考になさってください。

9.参考文献

Bergh U, Ekblom B. Influence of muscle temperature on maximal muscle strength and power output in human skeletal muscles. Acta Physiologica Scandinavica. 1979;107(1):33-37. doi:10.1111/j.1748-1716.1979.tb06439.x.

Chtourou, H., & Souissi, N. (2012). The Effect of Training at a Specific Time of Day. Journal of Strength and Conditioning Research,26(7), 1984-2005. doi:10.1519/jsc.0b013e31825770a7

Edwards BJ, Lindsay K, Waterhouse J. Effect of time of day on the accuracy and consistency of the badminton serve. Ergonomics. 2005;48(11-14):1488-1498. doi:10.1080/00140130500100975.

Heishman, A. D., Curtis, M. A., Saliba, E. N., Hornett, R. J., Malin, S. K., & Weltman, A. L. (2017). Comparing Performance During Morning vs. Afternoon Training Sessions in Intercollegiate Basketball Players. Journal of Strength and Conditioning Research,31(6), 1557-1562. doi:10.1519/jsc.0000000000001882

Kline CE, Durstine JL, Davis JM, et al. Circadian variation in swim performance. Journal of Applied Physiology. 2007;102(2):641-649. doi:10.1152/japplphysiol.00910.2006.

Kudielka BM, Schommer NC, Hellhammer DH, Kirschbaum C. Acute HPA axis responses, heart rate, and mood changes to psychosocial stress (TSST) in humans at different times of day. Psychoneuroendocrinology. 2004;29(8):983-992. doi:10.1016/j.psyneuen.2003.08.009.

Reilly T, Atkinson G, Edwards B, Waterhouse J, Farrelly K, Fairhurst E. Diurnal Variation in Temperature, Mental and Physical Performance, and Tasks Specifically Related to Football (Soccer). Chronobiology International. 2007;24(3):507-519. doi:10.1080/07420520701420709.

Sinclair J, Wright J, Hurst H, Taylor P, Atkins S. The influence of circadian rhythms on peak isokinetic force of quadriceps and hamstring muscles. Isokinetics and Exercise Science. 2013;21(4):279-284. doi:10.3233/ies-130498.

Teo W, Mcguigan MR, Newton MJ. The Effects of Circadian Rhythmicity of Salivary Cortisol and Testosterone on Maximal Isometric Force, Maximal Dynamic Force, and Power Output. Journal of Strength and Conditioning Research. 2011;25(6):1538-1545. doi:10.1519/jsc.0b013e3181da77b0.

Willis T, Oconnor D, Smith L. The influence of morningness–eveningness on anxiety and cardiovascular responses to stress. Physiology & Behavior. 2005;85(2):125-133. doi:10.1016/j.physbeh.2005.03.013.

The Peak Time for Everything – THE Wall Street JOURNAL

https://www.wsj.com/articles/SB10000872396390444180004578018294057070544

Why Most Olympic Records Are Broken in the Afternoon: Your Body’s Best Time For Everything

https://buffer.com/resources/your-bodys-best-time-for-everything-how-to-eat-sleep-and-work-more-efficiently

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