ズキン!としたヒジの外側の痛み。
テニスをされる方ならこれが「テニス肘」かと思うでしょう。実はテニスをされない方でも起こります。
選手なら練習についていけないかもと不安になり、また一般の方でも仕事や家事に影響があります。どんな方でも少しでも早く痛みを解放したいと思うはずです。
そこでこの記事ではこのテニス肘の改善法についてお伝えします。実際に整形外科にお務めの理学療法士の先生が伝える、痛みがひどい時の対処法やストレッチ、トレーニング方法です。
根本から解決するために、また納得して取り組んでいただけるようにご紹介しますので、テニス肘になってしまい、病院の治療に加えて自分でも何か行いたいとお考えの方はぜひご一読ください。
この記事は、今関礼章先生の監修を頂きました。
財団法人福祉医療推進事業団 あかりクリニック(静岡県) 理学療法士/日本コアコンディショニング協会認定マスタートレーナー&講師 他
目次
1.テニスに関係なく起こる!「テニス肘」とは
肘の外側の骨周辺に激痛が起こる傷害です。安静時は痛みを感じなかったり、おだやかな痛みですが、特定の動きをすることで激痛が走ります。
手首を反ったり、ぞうきんを絞る等のねじる動きをした際にこの痛みが生じやすいです。
テニスをされる方に多いのでこの名前が付いていますが、正式には上腕骨外側上顆炎(じょうわんこつがいそくじょうかえん)といいます。重い荷物を持ったり腕を急に酷使してしまうことで起きる可能性があります。
■テニス肘を判断できるトムセンテスト
テニス肘かどうかをチェックする方法の一つが「トムセンテスト(Thomsen-test)」といわれるものです。
二人で行います。受傷した可能性のある方は、ひじを曲げないようにして腕を伸ばします。もう一人がその手の甲を軽く押し、徐々に力をかけます。ひじ外側に痛みが発生する場合はテニス肘の可能性があります。
2.激しい痛みを伴う急性期(炎症期)の処置
残念ながらテニス肘となってしまっても、一般的な症状では、安静にしてアイシングや痛み止めを行っておけば1〜2週間で痛みがなくなり元の生活を過ごせるようになることが多いです。
しかしながら症状が重かったり、何度も発生する方やテニスなどのラケットスポーツをされる方は根本的な治療を行った方が良いでしょう。ここではその方法を段階別にお伝えします。
※どのような痛みでも、自己判断せずに一度は整形外科を受診なさってください。
2−1.急性期(炎症期)の場合はRICE処置を行う
激痛がある、患部の腫れや赤みがある場合は急性期(炎症期)といい、RISE処置という以下の方法を行います。
2−1−1.安静
症状を進めないために、患部に負担をかけることを避けます。具体的にはなるべく使わないようにするということです。手首やヒジの折り曲げや伸ばしもなるべく行わないようにします。
2−1−2.アイシング
炎症を抑えるのに効果的な方法です。アイスバッグを用意しなくてはならないので「そこまでしなくても…」と思われる方も多いのですが、アイシングをやるとやらないのではその後の回復に差が出ます。ポリ袋でも構いませんから必ず行うようにしてください。
患部に数分〜数十分当て続けますが、心地よいと感じる程度が大事です。感覚がなくなるほど当て続けるのはやりすぎです。
2−1−3.圧迫(コンプレッション)
患部を圧迫することで腫れを抑える効果があります。テーピングもこの一例です。
【テーピングの方法】
伸縮性の高いキネシオテープを使用します。一般的な5cm幅のものです。
25cmと15cmの長さに切り、中央部にハサミを入れます。写真のように3cmほど残します。
総指伸筋に沿ってテーピングを行います。
まず25cmのテープで、ヒジの先端の上部、親指側の出っ張った骨のところに起点を設けます。総指伸筋を上下に取り巻くようにテーピングします。
まず上(親指側)からややテンションをかけて貼ったのちに、小指側を円を描くように曲げて貼ります。
続いて短い方のテープを使用します。ひじの先端よりテーピングの幅分、手首側を起点にします。
手首側から先に、Vの字で重ね貼りします。テーピングはこれで完成です。
また、患部よりやや先のポイントをエルボーバンドで圧迫することで痛みがラクになる方もいます。これは患部に対して筋肉の引っぱりを抑制するからです。医師が勧める場合もあります。(痛みの軽減を感じない方もいます)
これは一般的なエルボーバンドです。通販で求めることもできます。Amazon紹介ページ
2−1−4.挙上
炎症を抑えるには血流を最低限にとどめることが重要です。患部をなるべく心臓より高い位置にすることを挙上といいます。ヒジの場合は挙上が難しいのですが、おやすみ中にクッションや枕の上に置く等を行ってみてください。
2−2.亜急性期に理学療法で行うクライオストレッチ
急性期(炎症期)から数日たち、少し動かせるようになってきたらストレッチを開始します。
理学療法では、アイシングしながら軽いストレッチを数セット行う「クライオストレッチ」を行うことがあります。大脳は痛みを感じると、その部分を守ろうとして筋肉の緊張をさらに進めます。これによりさらに痛みが増幅する可能性があるのです。アイシングで痛みを抑えながら、筋肉の柔軟性を引き出すストレッチを行うことでこの筋緊張をコントロールします。(今関さん)
なお、このクライオストレッチは状況を見ながら行う必要があるため、医師や理学療法士など専門家の指導のもとで行うことが必要です。
3.テニス肘のリハビリに欠かせないコツ
痛みの軽減に伴いリハビリを行いましょう。今関さんのクリニックでは、“中心に近いところから末端へ”の考え方に則っています。
特にテニス肘は手関節の伸筋群の過緊張であり、胸椎の椎間関節、肋椎関節周囲の異常緊張は関連が強いです。逆に屈筋の痛みは胸肋関節(胸あたり)の異常緊張が関連しやすいです。(今関さん)
つまり、手の甲を手前に引く動き(背屈)をした時に痛む場合は、背中の筋肉が緊張している(こりかたまっている)ことが多く、手のひらを手前に引く動き(掌屈)をした時に痛む場合は、胸側の筋肉の収縮の可能性が高いというものです。(これについては5章で解説します)
テニス肘は背屈で痛むケースがほとんどです。ですので背中〜肩甲骨〜腕〜手首の順序で可動性を向上させていきます。
3−1.背骨&肩甲骨まわりのエクササイズ
■ドローイン
仰向け寝で行う呼吸エクササイズです。呼吸を深くすることで、肋骨を内側から広げましょう。ヒジが痛い場合も行えます。
仰向け寝でヒザを立てます。軽く息を細く長く吹きながらお腹を締めていきます。息がほとんど出きったらそこでお腹をキープします。お腹を締めたまま浅い呼吸を10~30秒繰り返します。
ドローインについては別記事「ドローインの最も効果的な方法と全知識・失敗例&応用運動も」にて詳しく解説しています。お腹引き締めや腰痛予防にも効果がありますので併せてご一読ください。
■肩甲骨外転ストレッチ
お伝えしたように背骨と肩甲骨からアプローチします。特にデスクワーカーの方は背中が固まっているケースが多いです。
この運動は足のテンションで効果的に肩甲骨を開くことができます。背中が弓なりに丸くなっていることもポイントです。
■肩甲骨と胸郭の運動
そのまま腕を伸ばして組み、背中の丸まりをイメージしたまま、横に8の字を描くように左右に揺れます。
■肩甲骨の内転運動
肩甲骨を寄せる運動も行います。
腕を軽く前に出し、手のひらを上に向けます。そのままヒジを後ろに引き、肩甲骨を寄せ胸を開きます。
■キャットバック
腕が床につけるようでしたらぜひ行ってください。お腹をのぞきこんだり背筋を伸ばすことで、インナーユニットの活性化と胸郭の柔軟性を引き出します。
四つんばいになり、脚を腕と同じ幅くらいに広げます。息を細く長く吐きながらおへそをのぞきこむように背中を丸めていきます。この時に完全に背中が丸くなることが重要です。よく腕で床を押してできる限り背中を丸めるようにしてください。
息が出きったら、吸いながらよく背中を伸ばして前の方に重心移動します。腰を反らないようにしてください。3〜5セット行います。
■肩甲骨回し運動
両肩を指で触れ、そのまま両ヒジがくっつくように下から前に大きく回し、そのまま後ろまで回します。10回行ったら反対回しも行いましょう。クロールや背泳ぎのように交互回しも行ってください。
■ストレッチポール®
ストレッチポール®をお持ちであれば、呼吸や胸開きの運動を行いましょう。
これにより、呼吸が深くなり、背骨や肋骨まわりの細かい筋肉がゆるめられます。胸郭や肩甲骨の柔軟性も向上します。
ストレッチポール®を使用した胸郭まわりの運動は、動画にてご覧頂けます。
3−2.腕〜手首のストレッチ&マッサージ
■肩後部筋(三角筋後部)のストレッチ
腕の付け根にある肩後部のストレッチを行います。
片ヒジを胸の前に出し、もう片方の腕で手前に引き寄せます。息を止めずにゆっくり10カウント。交互に2〜3セット。
■セルフマッサージ
ヒジから先の筋肉をマッサージします。写真ではストレッチポール®EXを使用しています。テニスボールなどでも可能です。
■机を利用したストレッチ
■肋骨を利用したストレッチ
手首のストレッチになるように肋骨を手の甲を使って左右からプッシュします。
■指ストレッチ
全ての指を行ってください。2、3本まとめて行うこともおすすめです。
3−3.可動域向上&筋力トレーニング
肩まわり周辺や深層部の筋肉をトレーニングし、肩の可動域や柔軟性を向上させます。これも背中〜肩〜指先と行いましょう。
■TWYエクササイズ
うつぶせ寝になり、文字の形に手を開いて肩甲骨の動きを引き出す運動です。
両腕を開いてTの字形になるようにします。お腹は床につけたまま腕を後ろ(天井方向)に引っ張るように上げます。10回3セット。上半身を持ち上げすぎて反り腰にならないようにしてください。
■ダンベルトレーニング
ダンベルを使うことで肩甲骨周辺と深層筋を鍛えることができます。反動を使わずに大きくゆったりと動かしましょう。写真のダンベルは1kgを使用しています。
10~20回を2〜5セット行います。
■指先トレーニング
手指は前腕の伸筋に直接繋がっています。指先のトレーニングを行うことで伸筋を鍛えることができます。
フィンガートレーナーというツールを使うと効果的です。写真はラッキーウエスト社製のもの。3種類入っていて負荷を変えることができます。Amazon紹介ページ
同様の運動は、トレーニングチューブでも工夫をすれば行うことができます。
足首などに使うチューブを二重の輪にして指の付け根にセット。開いたり閉じたりを繰り返します。10回3セット。回数やセット数、チューブの強度を増やしていってください。
4.早期回復と再発防止のためのインナーユニット活性化プログラム
ヒジに限らず、手足の動きの根幹はインナーユニットという腹部の深層筋肉です。呼吸や姿勢にも大きく関わるインナーユニットを活性化することでカラダの基礎づくりを行うことができます。軽視せずに日々行っていただきたいものです。
4−1.プランク&肩甲骨エクササイズ
最も有名な体幹トレーニングが「プランク」です。カラダを一本の軸にすることでインナーユニットの活性化と強化を行います。※ヒジを付く運動ですので痛みがある際は行わないでください。
腕立て伏せの状態から、ヒジから先を床に付けます。頭からカカトまでが一本の軸となるようにしてキープしてください。お尻が浮いたり沈んだりしないようにします。30秒〜数分。
その状態のまま、肩甲骨から、カラダ全体を動かして浮き沈みさせます。腰で行うのではなく、あくまでも肩甲骨の開き方で動かすようにしてください。5〜10回。2〜3セット。
4−2.ヒップリフト
これもインナーユニット活性化エクササイズです。仰向け寝になりお尻を持ち上げキープします。
お腹を突き出すのではなく、またお尻が落ちてしまっても効果がありません。横から見て綺麗に一直線をキープできるようにしましょう。
4−3.サイドプランク
カラダの側部の体幹を鍛えます。ヒジを付ける運動ですので痛みのある方は行わないでください。
横向き寝になり、ヒジから先でカラダを支えます。
4−4.ストレッチポール®ひめトレ
ストレッチポール®ひめトレは当ブログを運営する㈱LPNが製造販売する骨盤底筋エクササイズ用ツールです。呼吸を深くし、体幹を鍛えることができます。
椅子にひめトレを置き、その上にリラックスして座ります。ひめトレが当たる部分を意識しながら呼吸と腕のエクササイズを行うだけです。ここではひめトレの代表的なエクササイズを一つご紹介します。
写真のようにお腹の前で手をクロスさせます。息を細く長く吐きながら、その交差した部分をヒザのほうに出していきます。ゆっくり吐ききったら、息を吸いながらもとに戻ります。
4−5.スイングストレッチ®
スイングストレッチ®もLPNが製造販売するツールです。そもそもはゴルファー向けに体軸の回旋動作の向上を目的に作られたツールです。これを使用した運動が、股関節の状態を改善したり胸郭の柔軟性を引き出すことがわかり、あらゆる方の動作の改善に役立てられています。
骨盤を揺らす運動で、なぜか胸郭が柔らかく!
これはインナーユニットが活性化し、骨盤周辺を安定させ、同時に胸郭の自然な動きがカラダに再認識されることなどがあると考えられます。肩甲骨周辺の動きを引き出す運動を一つご紹介します。
写真のように骨盤下にスイングストレッチをセットし、ヒザから先を床にあて脱力します。プランク状に両腕を前に出しておいてから、右腕を左の脇の下を通して伸ばします。頭は床について構いません。この状態で腰を左右に小さくスイングさせます。ゆっくり10〜20秒。
5.テニス肘の改善に胸郭・肩甲骨など体幹部が大事な理由
「テニス肘」はヒジから先の部分を酷使することで起こりやすいと一般的には考えられています。ですので、この部位のストレッチが紹介されていることが多いです。
しかし、長引いたり頻発したり慢性化する場合は、根本的な部分から解決しなくてはなりません。その一つが胸郭や肩甲骨から見直す方法です。
その理由について、ここでは今関さんの所属する清泉クリニック整形外科の考える理論をご紹介します。
5−1.末梢の傷害は体幹に近い関節の影響も疑う
体幹の機能不全とは、体幹筋の劣えや姿勢の不良によってもたらされます。また、体幹に近い関節(胸郭や肩、肩甲骨まわり)の動きが悪かったり、筋肉が凝り固まったり、伸張しっぱなしの場合も動きに影響をもたらします。
■体幹部の影響を確認する方法
まず冒頭でご紹介したトムセンテストを行います。続いて「3−1.背骨&肩甲骨まわりのエクササイズ」を数種類実施します。その後再度トムセンテストを行い、痛みが改善した感覚があれば継続的に体幹部からのアプローチを行います。
5−2.体幹が機能不全の場合は肩など他の関節が代償する
動きの根源となる動力は、本来体幹部から生じます。腕の動きに際し、体幹が機能不全の場合は、肩がその動力を発生させることになります。その結果、上図の通りひじや手首など末梢にある関節周辺で伸び過ぎと縮みすぎが同時に発生することになります。
動力部が体幹から離れるほど(先端に近くなるほど)、この伸び過ぎと縮み過ぎの傾向が増大しやすくなります。
5−3.手足のパワーと可動性は脊柱周辺の柔軟性に大きく影響される
今関さんの所属するクリニックでは脊柱周辺(背骨や胸郭、腰部など)の状態や柔軟性を重視します。
背骨周辺は動作の動力源であり、その動力の伝達が“動き”であり、末端部でのパワーの発揮に繋がります。その経路のどこか一部分(主に関節)に、伝達効率が悪い部分があると、そこに過剰な負荷が生じて、痛みを発生させるのです。
ひじに限らず、手首やひざ、足首などの傷害は体幹部の機能不全から影響を受けている可能性があります。この部分に傷害を感じる方はその可能性をぜひ配慮していただければと思います。
6.まとめ
テニス肘の対処法をお伝えしました。特に体幹からのアプローチ方法は原因から見直す根本的な解決策です。ぜひ背中や胸郭の運動を積極的に行ってください。皆さんの回復が少しでも早く、また再発することのないよう願っています。
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