「慢性腰痛ですね、安静にしていてください。痛み止めと湿布をお出ししておきます」
「先生、原因は何でしょうか?」
「うーん。ちょっと太り気味かもしれませんね。様子を見ながら運動をなさってください」
このように言われることが少なくありません。ちっとも原因がわかりませんよね?
「太り気味」は確かに原因かもしれませんが、やせても解決しそうな気がしないものです。事実、やせてる方でも腰痛の人は大勢います。
なんとなくスッキリしない気持ちで病院をあとにすることになります。
しかし、このような方には共通する真の原因があるのです。この記事ではその原因と解消法についてお伝えします。腰痛でお困りの方はぜひご一読ください。
*ここで述べる腰痛は、原因となる症状が断定できない慢性的な腰痛です。症状のはっきりしている腰痛(椎間板ヘルニアなど)、 激しい痛みや持続する鋭い痛みのケース、発熱などの炎症があり、アブラ汗をかくようなタイプの腰痛は、整形外科を受診してください。 またどのような腰痛でも、一度は整形外科を受診されることをお勧めします。
目次
1.原因がはっきりしない腰痛がほとんど
腰痛の原因疾患と言われるものはあまりに多いです。腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)、脊椎すべり症、さまざまな内臓の病気などです。
また、腰痛を引き起こす原因といわれるものも多いです。
・悪い姿勢
・長時間の同じ姿勢
・腰に負担のかかる姿勢
・過度の運動
・運動不足
・筋肉の衰え
・老化
・冷え
・先天性の問題
・心理的な問題
皆さんが知りたいのはこのことでしょうか? 疾患の場合は病院ではっきりし、治療も明確になりますますし、原因に心当たりがあればそれに対処すれば良いのです。
しかし、皆さんが知りたいのはそれだけではないはずです。
85%の腰痛、つまり腰痛のほとんどは「原因がはっきりしない」と言われます。たまに起こる鈍い痛み(慢性腰痛)もそうですし、ぎっくり腰などの急性の強い痛みですらそのように言われるケースばかりです。
それが冒頭のような会話になってしまうのです。しかしこのような方には共通する真の原因があったのです。
2.原因がはっきりしない腰痛をひき起こす「真の原因」とは
それはズバリ「腰部の不安定性」です。腰が不安定であることは端的にはグラグラしてしまうことですが、それ以外に腰が本来の状態から異なってしまっていたり、正しい機能が失われています。ここではこの2点についてご説明します。
2−1.腰が本来の状態にないこと
自覚しにくい「腰の状態」がやっかいな問題を引き起こしています。
腰は「ニクヅキに要」と書くように、カラダでは非常に重要なポジションと機能を持っています。私たちは寝返りを打つことですら腰が正常に機能しなくなると途端に困難になります。
自覚できない腰のトラブルで最も多いのは、腰の前傾と後傾です。胸を張った良い姿勢のつもりが、骨盤の前傾を生み出しているケースが少なくありません。
骨盤が前傾すると、反り腰が生まれます。下図をご覧ください。
試しに椅子に座りながら、腰を過度に前傾させて反り腰を作ってみてください。お腹が前に出て前ももに力が加わります。お尻もベッタリと椅子の座面に接します。
反対に、骨盤が後ろに傾くことでも腰に負担がかかります。フラットバックといわれる姿勢です。
これも試してみると、お腹に不要な緊張が生まれ、前もも(特に外側)やお尻も硬くなります。この姿勢をとり続けることで関係する筋肉の硬直が発生します。
最も力の抜けた負担のかからない姿勢は、骨盤が立って坐骨が座面を捉えている時だとご理解頂けると思います。
2−2.正しい機能が失われていること
上記のように、腰が正しい状態にないと正しい動きができにくくなります。
まず「代償運動(動作)」というものがあります。これはある部位の機能が弱いとき、他の筋肉や部位で、動きをカバーするというものです。
例えば、腹筋トレーニングの時に、本来は腹筋だけで起き上がることが望ましいのですが、腹筋が弱くて苦しいと、背中や肩の押し出し力でカラダを上げようとします。
例えば、右足首をねん挫したとします。普通に歩くと右足が痛いので、かばって左足に体重をかけカラダを傾けて歩きます。
関節の動きでも同様のことがあります。カラダを前に倒そうとして腰が痛い場合、腰は曲げずに背中から上で曲げようとします。
筋肉でも同じです。姿勢のための筋肉が弱っている場合、動きのための筋肉がその役割を補います。
これらはすべて代償運動です。代償運動が起きる部位はその分負担が大きくなります。
この図のように、歩いている時、立っている時、座っている時に骨盤が傾いている方は、姿勢が悪いとも言えますが、代償運動の一例です。腰のみならず全身のどこかに不調を抱えてしまいがちになります。
この代償運動は、そのままにしておくと年月とともに傾向が強まっていきます。
もう一つは、動作に対する反応が鈍くなるということです。
人間は動こうと思った時にお腹の深層がまず先に動き出します。そのことで腰を守り軸を固め、手足がしっかり動けるようにするのです。この反応が失われると腰が安定しなくなります。
例えばくしゃみをする際にも、寸前で腰を守るためにお腹が固まるのが本来の動きです。しかし腰が弱い方はその反応がないために、くしゃみでもぎっくり腰になったりするのです。
これを避けるために、腰を安定化させ、正しいポジションでキープできるようにすることが最も大切なのです。
3.腰の安定性に関わる筋肉とは
腰の安定性は、主に腰部の深層筋の活用や強さによってもたらされます。骨格とは「骨の配列」のことですが、それを決定づけているのは大小さまざまな筋肉です。特に骨に直結している深層筋が大きく関わっています。
腰を支えているのは、骨としては腰部の背骨しかありません。この骨の配列に関わる筋肉のみならず、腹部をコルセットのようにとりまく筋肉、お腹を上と下から押さえる筋肉などを日頃からトレーニングしておくことが重要なのです。
お腹周りの深層筋の代表的なものは次の通りです。
・腹横筋(ふくおうきん)・多裂筋(たれつきん)・横隔膜(おうかくまく)・骨盤底筋(こつばんていきん)・脊柱起立筋(せきちゅうきりつきん)・腰方形筋(ようほうけいきん)・大臀筋(だいでんきん)など。
これらの筋肉は深層にあり、また他の筋肉と連動して機能するために、これだけを単独でトレーニングするのはなかなか困難です。
次項ではこれらの深層筋肉を総合的にトレーニングする方法をお伝えします。
4.腰部の安定性を作るには「トレーニング」の理由
腰痛解消のストレッチ方法をお探しの方が多いのではないでしょうか。「腰が痛いのは固まってしまった背筋や腰が原因でそれを伸ばすことで効果がある」と考えられるのも無理もありません。実際に前かがみ姿勢のあとに背中に腰を伸ばすと伸びて気持ちがいい感じがします。
しかし、実際にはストレッチよりも腰部の安定性を高めるトレーニングを行う方が長い目で見れば効果が高いのです。
これはなぜかといいますと、多くの場合ストレッチで伸びるのは脚部などの大きな筋肉です。それがいざ動作になった時には、深層筋が伸びてしまうからなのです。
イメージしやすくするために、2つの強さの異なるバネを例にしてお伝えします。
弱いバネと強いバネを連結して伸ばしてみます。もしお手元に太さの異なる輪ゴムがある場合は繋いでみてください。
すると弱いバネの方だけが伸びてしまいます。カラダの中でもこれと同じことが起きています。
腹部(腰部を含む)の筋肉が弱い場合に、脚部を動かそうとしても、腹部だけが伸びたり縮んだりしてしまうのです。腹部にのみ負担がかかり伸びきった筋肉は腰を守ることができなくなるのです。
腹部に負担をかけないためには、腹部も脚部も同様に伸びたり縮んだりすることが必要です。2つのバネを同じ強さにすると均等に伸び縮みすることがわかるでしょう。
ですので、長期的にみれば、筋肉をストレッチで伸びやすくすることよりも、腹部を強くするほうが腰にとっては安全で守られることになるのです。
- ストレッチには、筋肉を温め動くための準備を行ったり(ウォーミングアップ)、酷使した筋肉の疲労回復効果を促す作用(クールダウン)があります。ですので、一日の始まりや運動前には動きを取り入れた動的ストレッチを行ってください。運動後やおやすみ一時間前には静的ストレッチをおすすめします。動的ストレッチは「動的ストレッチは運動前がベスト!効果と特選ストレッチ7選」、静的ストレッチは「静的ストレッチ」をご参考になさってください。
5.腰の安定化をはかる体幹トレーニングの方法
当ブログの人気記事「腰痛ストレッチ・7つの筋肉を活用して慢性腰痛にサヨナラ!」では、タイトル名こそ腰痛ストレッチが入っていますが、記事内ではトレーニングの方を重要視してお伝えしています。
ここまでにお伝えしたように腰を強くする方法が優先されるからで、その方が効果が高いからです。
それはいわゆる腹筋トレーニングのようなものではありません。腹筋トレーニングで鍛えられるのは、お腹の外側の腹直筋やその下に斜めに走る腹斜筋というものだからです。深層の小さなかつ広範囲に及ぶ筋肉を鍛えるには以下のものを行います。
・呼吸トレーニング
・腰の位置を正しい状態におくトレーニング
・腹部を中心とする体幹トレーニング
以下にその代表的なものをお伝えします。
5−1.腹式呼吸
インナーユニットの働きを良くする基本的なエクササイズです。
仰向け寝でヒザを立てます。お腹に手を当て、息を吐きながらお腹を凹ませていきます。10秒以上かけて、細く長く腰を床に押し付けるようにします。馴れてきたら、より長い時間をかけて行うようにしてください。3〜5セット。
5−2.キャットバック・ストレッチ
猫が寝起きに伸びをするような動きをイメージしてください。 背骨の深層筋肉のストレッチと、体幹筋の活性化エクササイズです。
肩とももの付け根から、床に垂直になるように手・ヒザをつき四つんばいになります。
1.背中を丸めながら天井へ引き上げます。この時に息を細く吐きながら、おへそに顔が近づいていくようにします。背中が丸められることで背骨にそった脊柱起立筋へのストレッチがかかります。
2.息を吸いながら、背中を反らしつつ、上と前に伸びていきます。前を見るように目線を上げ、首を前にのばしていきます。両手で床をじんわりと強く押していってください。
1と2を交互に繰り返しましょう。3〜5セット。
5−3.プランク
腕立て伏せの姿勢から、肩の下にヒジが来るようにして床にヒジをつきます。頭からおしりまでが一直線になるようにしてお腹が落ちないように姿勢をキープ。呼吸は自然に繰り返してください。30~60秒を目安に行いましょう。
アレンジメニュー・ラクにできるようになったら、片足をつま先まで伸ばして、床から20cm程度浮かしてみましょう。さらにお腹を鍛えられる運動になります。
5−4.サイドプランク
ヒザを90度に曲げ、肩の下にヒジが来るように床につけ横向けに寝ます。このとき、ヒジの角度は90度にしましょう。おなかが落ちないように頭からおしりまで一直線を維持して30~60秒を目安に姿勢を保ちましょう。
アレンジメニュー・脚をカラダと一直線にし、上になっているヒザを床から上げます。運動の強さが高まります。
5−5.逆プランク
足を伸ばして床に座ります。
肩の下にヒジが来るように床につき鎖骨からかかとまでが一直線になるようにしておしりを床から持ち上げます。このとき、目線はつま先を見るようにします。30~60秒を目安に行いましょう。
5−6.ダイアゴナル
キャットバックの体勢から、お腹に力を入れて片腕をあげます。そのまま反対の脚をあげます(右腕をあげたら、左脚をあげる)。10秒キープして、脚と腕をおろし、反対側も行います。2〜3セットを行ってください。
詳しくは 別記事「腰痛ストレッチ・7つの筋肉を活用して慢性腰痛にサヨナラ!」をご覧ください。また腹式呼吸に代えて腰を固めるドローインの呼吸法も非常に効果が高いものです。説明が長くなるので省略しましたが、別記事「お腹を締めるドローインの正しく効果的な方法はコレ。NGも」にて詳細に方法をご説明していますので併せてご一読ください。
ちなみに骨盤底筋、腹横筋、横隔膜、多裂筋の四つを手軽にトレーニングできるツールとして「ひめトレ」という製品があります。ひめトレを置いた椅子に座るだけで理想的な骨盤の状態が自覚でき、安定性を高めるエクササイズができるものです。詳しくは当ブログのひめトレ紹介ページをご覧ください。
※ひめトレエクササイズの例(呼吸トレーニング)
骨盤底筋を意識して呼吸をしていきます。
エクササイズ方法:
ひめトレの上に座り、触れている部分を引き上げながら、大きく呼吸をします。
息を吸いながら骨盤底筋を引き上げ、その位置をキープした状態で息をしっかり吐ききりましょう。5回ゆっくりと行いましょう。初めはシンプルに骨盤底筋を感じましょう。
6.まとめ
腰痛の真の原因は腰の不安定さにあることと、良い位置でキープできるように安定性を高める方法をお伝えしました。腰痛の原因はいろいろ考えられますが、いずれも腰が本来の状態や機能が失われていることによるものです。そのためにぜひお伝えした方法を日頃から取り組んでいただきたいと思います。
座っている時の理想的な姿勢については別記事「デスクワーク姿勢のベストはコレ!疲れ知らずな座り方のコツ」においてご説明しています。こちらも大変参考になりますので、ぜひお読みください。
皆様が一生腰痛と無縁になることを願っています。
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