五十肩の治し方・セルフでできる緩和策と整形外科での治療の全知識

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Rehabilitation female patient

イテテテテ………。痛くて肩が上がらない。この痛みは何なのでしょう。特に心当たりがないのに突然発生してお困りですね。

「五十肩」と言われるものかもしれません。以前は五十代になると発症することが多くこの名前がついていましたが、現代になって若年齢傾向が増し「四十肩」とも言います。三十代で起こる場合もあります。いずれもはっきりした原因は不明ですが、症状は同じものです。

そこでこの記事では、毎月100名近くの患者さんのケアをする理学療法士の先生に取材し、五十肩の解説や、セルフでできる解消方法、病院で行う治療方法などを解説します。五十肩でお悩みの方はぜひご一読ください。

この記事は、今関礼章先生の監修を頂きました。
財団法人福祉医療推進事業団 あかりクリニック(静岡県)理学療法士/日本コアコンディショニング協会認定マスタートレーナー&講師 他


1.五十肩とは

young woman shoulder in pain

心当たりがないのに、どちらかの肩だけに痛みが襲ってくることがほとんどです。

医学的には「肩関節周囲炎」とも呼ぶ、突然起こる肩の痛みです。多くの場合は肩を動かせる範囲が狭くなります。上げようとしたピーク地点で痛みが発生するからです。少し動かすだけでも鋭い痛みを感じることがあります。

英語ではFrozen Shoulderと言い、これを和訳して「凍結肩」と呼ぶこともあります。いずれも症状や治療法に差はありません。

ごくまれに一週間程度で痛みがなくなることもありますが、多くは数ヶ月〜半年かけて回復していきます。こじらせてしまい1年以上痛みを引きずるケースもあります。

似た症状の肩の痛みを伴う疾患に「腱板断裂」「石灰沈着性腱板炎」などがあります。腱板断裂の場合は、肩を上げようとする動作の全体で痛みが発生します。これらに限らず、治まったはずの肩の痛みが何度も起こる場合や、夜間に強い痛みがあって眠れない場合は整形外科医の診察を受けてください。


2.五十肩チェックポイント

肩に痛みがある30〜60代の方で、以下の項目に1つでも当てはまる場合は、五十肩の可能性があります。

・以前から肩甲骨の動きが悪い

・肩を酷使してしまった

・運動不足ぎみである

・呼吸が浅い(腹式呼吸を行っていない)

・立ち姿勢や座り姿勢があまり良くないと思う

五十肩の可能性がある方は、軽度であれ一度は病院(整形外科)の診察を受けることをおすすめします。

必ず整形外科に行った方がいいケース

痛みの強さや時期によっては、すぐに整形外科で診察をしてもらったほうが良いケースがあります。

実は、五十肩の病期は、一般的に下記の三期に分けられます。

急性期(発症から2週間) 鋭い痛みが四六時中持続する。肩の動かせる範囲が著しく狭い状態が続く。

拘縮期(こうしゅくき・急性期後6ヶ月くらいまで) 肩の痛みは落ち着いているが動きの範囲が狭い状態が続く。

回復期(発症後半年〜1年くらいまで) 痛みが少し残るが、肩を動かせる範囲がだいぶ回復して日常生活のほとんどが支障なく過ごせるようになる。

このうち

すべての時期で、鋭く強い痛みがあったり、夜間や安静時にも痛みが持続する場合

拘縮期でも、時々強い痛みが走ったり、就寝時の寝返りで痛みが発する場合、また前ならえで腕が90度以上挙げられなかったり、後ろ手に腰を触れない場合は、病院の診察を受けるべきです。

適切な治療を受けられない場合は、治癒まで長引いたり、他の疾患を併発したり、重度の場合は拘縮肩といってずっと痛みと可動域制限が残るケースがあります。

3.五十肩の原因

肩関節周囲炎

肩関節周囲炎の一例

五十肩は、一例では、肩関節の周囲に炎症が起きている状態があります。これは関節を包んでいる「関節包」という部位にダメージがあり、損傷した組織が蓄積したり肥大化することで、肩の動きを妨げたりして痛みを発生させているケースで関節包炎といいます。

この他にも

・肩峰下滑液包炎(けんぽうかかつえきほうえん) 摩擦を減らすための液体を包む部位に炎症が起きている状態

・上腕二頭筋腱炎(じょうわんにとうきんけんえん)上腕二頭筋にある腱に炎症があり、肩関節を動かす時に炎症部分が靭帯に圧迫されて痛みを感じる状態 などがあり、病態はさまざまです。

ダメージの原因も多様で、肩を酷使したり、逆に使わなかったり、日常の姿勢が悪く、肩に負担がかかるようになり発生すると考えられています。

本稿監修者の今関さんによると、「五十肩を発症する多くの方には、背骨のS字カーブの崩れや、胸郭(肋骨まわり)が硬くて動きが悪いことが見受けられます。治療を行う上ではこの部分の改善も併せておこなっていくことが多いです」とのことです。

肩関節内部

肩関節内部で起きていることの一例

コラム 女性の方が五十肩になりやすい

今関さんが勤めるクリニックには、平均して毎日4〜5人が肩の痛みを訴えて来院されるそうです。その7〜8割は女性とのこと。「五十肩」という名称が年齢と老化をイメージさせるためか、患者さんは五十肩とは思っていないそうです。

「女性が多い理由については、男性に比べて基礎代謝が低いことと、運動習慣が少ない方が多く、肩を動かす機会も少ないようで、五十肩が発生しやすいと思っています。また、育児や介護、悩みごとで睡眠不足となり胸郭が硬くなるケースもあるように感じます」(今関さん)

男性でもゴルフやテニスを行う方で発症されることもあるそうですが、そのようなスポーツを行っている方のほうが治りが早いとのことです。今関さんのクリニックでも、発症した女性には可能な限り肩周りを動かすような運動指導を行って回復を図っています。

4.セルフでできる五十肩の治し方

誰しもできるだけ病院の世話にならず、一人で解消したいと思います。通院中の方でも自宅で取り組める方法を行うことで、治療の効果を高めることができます。ここでは自宅でできる対処法をお伝えします。後述する整形外科での治療と併用して行ってください。(実施に際しては、医師に相談してください)

■急性期は安静にする

発症直後に強い痛みがある場合は、痛み止めの服用等を行い、安静に過ごしてください。重い荷物を持つ等、痛みのある部分に負担がかかるようなこともよくありません。肩が痛くて痛み止め薬を服用してもあまり眠れない場合は、痛い方の肩を上にすると痛みが和らぐ場合があります。

■急性期の強い炎症は冷やす

アイスバッグ

アイスバッグは1リットルくらいのものを1つ持っておくと便利

急性期で痛みが強い場合はアイスバッグなどで冷やします。痛みや腫れを和らげるために日中、3~4時間おきに20~30分冷やします

氷水を作りアイスバッグに入れる方法がもっとも効果的で行いやすいです。アイスバッグを離して患部を触って痛みや感覚があるかを確認します。触る感覚もわからないようであれば冷やし過ぎですので注意してください。

■拘縮期〜回復期の痛みは「冷やす」「温める」を心地よさで選択する

慢性的な炎症ではほんのりと患部を冷やしてから軽く動かします。

この時期は温める方が心地よいと感じる方もいるので、急性炎症でない場合は心地よい感覚を大切にします

特に冷え性などがある方は、冷やすと首回りの筋肉や呼吸のための筋肉が縮こまって硬くなる場合があるので、まれに症状を悪化させてしまう人がいます。

拘縮期〜回復期は無理のない範囲でできるだけ動かす

痛みが引いてきたらできるだけ動かした方が良いのですが、回復を焦るあまりに過度の動かしすぎは禁物です。痛みを我慢しながら動かし続けるとかえって炎症を悪化させることがあります。主治医や理学療法士と相談しながら続けられることをおすすめします。

拘縮期〜回復期に行いたいストレッチ

五十肩を改善する、症状を緩和させるためには、日常生活の中でストレッチをすることが効果的です。ここでは五十肩を改善するために毎日行いたいおすすめのストレッチ3種目をご紹介します。胸郭や肩甲骨の動きを良くする大切なストレッチなのでぜひ毎日実施して五十肩を改善しましょう。

※激しい痛みがあるときは、炎症を悪化させる恐れがあるため、継続せず運動を中止しましょう。

ウォーミングアップ編「肩甲骨の動きチェック運動」

肩甲骨には主に6つの動きがあります。五十肩の悩みを抱えている方の多くは、この6つの動きができないかもしれません。これらの動きをイメージ通り動かせるようになることで、五十肩対策に効果的です。無理のない範囲で実際に動かしてみましょう。

 

肩甲骨の動きチェック

動きにくい動作はありませんでしたか?
日常的に一部の筋肉に負担がかかり過ぎていると、いくつかの動きがとりにくい場合があります。気になる動きを意識的に行うだけでも普段縮こまっている筋肉をストレッチすることができるので、ぜひ動かして感じてみてください。

肩甲骨の動きを良くする「膝の抱え込み運動」

膝を抱えるようにして肩から肩甲骨まで刺激をいれるエクササイズです。ポイントは全身を脱力して行うことです。デスクワークなどで椅子に座ることが多い方は仕事の合間に行えるのでこまめに行いましょう。

エクササイズ方法:膝の抱え込み運動
椅子に座った状態で軽く片脚を浮かせます。(両膝が90度に曲がり両足が床につく椅子をご用意ください。)
膝頭を抱えるようにして持ち、歩く背中を丸めて抱えている脚が床につくかつかないかギリギリの高さになるように調節しましょう。全身はなるべく脱力した状態で20秒キープ。終了後抱える脚を入れ替えましょう。両足を1セットにして3セット行いましょう。

胸郭と肩甲骨の動きを引き出す「胸おこしローイング」

肩甲骨の動きを出しながら胸郭を動かすエクササイズです。椅子に座り呼吸と連動して行うので、呼吸が浅い方は深く正しい呼吸ができるようになります。

エクササイズ方法:胸おこしローイング
手の甲を膝の上にくるように置いて座ります。この時目線は骨盤あたりを見て少し背中を丸めるイメージです。
息を吸いながら手の甲が膝から骨盤にかけて滑るように肩甲骨を内側に寄せながら肘を真後ろに引き、顔を起こしてきます。この時顔は正面を見るようにしましょう。

息を吐きながら元の姿勢に戻ります。この動きを繰り返し行います。10~20回を目安に始めは動きなどを丁寧確認しながら10回行いましょう。

別記事「五十肩・四十肩の回復を圧倒的に早める10の特選ストレッチ」にて、さらに回復効果を高める四つん這い姿勢での運動や椅子を使った運動をご紹介しています。気になる方はそちらもご参照ください。

5.市販薬やサプリメントの効果は?

一般的な市販薬

五十肩に効果があるとされる市販薬の内容は次のようなものです。

・鎮痛効果

鎮痛作用については、病院で処方される薬の方が効果が高いです。特に急性期の鋭い痛みについては、処方薬をおすすめします。

・血行促進効果

血行促進効果については、「ないよりはあったほうがいい」程度のものと思われます。上記で説明した運動を行ったり、お風呂やカイロ、保温サポーターなどを使用するほうが直接的な効果があるでしょう。

漢方薬

2014年、小林製薬より五十肩に効果のあるという漢方薬(商品名:シジラック)が発売されました。肩こりに効果のある葛根湯に、独活などの生薬を配合したものです。生薬の力で鎮痛と血行促進をはかるようです。漢方薬の効き目には個人差があります。痛みが治まったとしても、なるべく運動をこころがけるようにすることをおすすめします。

サプリメント(健康食品)

関節の動きを良くするイメージで売られているサプリメントがあります。原因のところで説明した通り、五十肩の原因はさまざまですが、軟骨成分がすり減ったり、関節液が少なくなったことで起きていることはあまり考えられません。

その軟骨や関節液を構成する成分を、サプリメントとして口から摂取した場合に、五十肩に対してどの程度効果があるかは科学的にまだわかっていません。

6.整形外科で行う五十肩の治し方

ここでは、整形外科ではどのような治し方をするのかについてお伝えします。前提として整形外科医は、患者さんの状態を色々な手段を使って把握し、適切と思われる治療法を選択します。そのためにヒアリング、外見や動きの観察、触診、さらにレントゲン撮影・CT・MRIなどを使います。

・薬物(痛み止め)療法 鋭い痛みは、患者さんのもっとも苦痛となるものです。まずは痛みを取り除く薬を使用して、苦痛を和らげることが一般的です。五十肩の痛み止めの薬には、内服薬(ロキソニン、イブプロフェン等)が最も多く、湿布、塗り薬、注射も使用されます。一般的に言う「神経ブロック注射」も痛み止めです。強い痛みや一時的に痛みを軽減したい場合は座薬を用いる可能性もあります。

・生活指導 急性期では痛みを引かせるために安静にしておくことが大事です。生活指導では、この時の注意点を伝えます。拘縮期以後では、できる範囲で動かすための方法や、肩を温めておく方法、入浴時の動かし方などを伝えます。軽度な五十肩であれば、内服や湿布の痛み止めと生活指導のみの治療となることが多いです。

以下の治療法は、整形外科医によっては選択しない場合があります。

・理学療法 一般的には手技と運動療法を用いて改善を目指します。整形外科医の判断で選択され、理学療法士が行います。手技では患部周辺をゆるめることなどを行い、運動療法では実際にカラダを動かしたり、一人で行う方法を伝えます。患者さん個々の状態に応じての指導となります。日常の運動プログラムを提案してくれる場合もあります。前述の生活指導より細かいケアを行ってくれるでしょう。

理学療法を実施中の今関さん

理学療法を実施中の今関さん

・物理療法 温熱や電気刺激、低周波線などを用いる治療法です。専用治療器で、血液循環の改善、筋の緊張や痛みを除去、軽減します。五十肩以外にもヒジやヒザなどの関節痛や腰痛などで用いられ、運動しやすくすることを目的とします。

・パンピング療法 肩内部に注射によって生理食塩水と局所麻酔薬を入れて、少しずつ関節包を膨らまし、癒着を解放する方法です。

・マニピュレーション療法(非観血的授動術) 肩関節の痛みを感じる神経に麻酔を行い、肩を他動的に動かすことにより関節包の癒着を解除する方法です。 パンピング療法ともに、神経に麻酔をするだけでなく肩関節内にもブロック注射をおこなうことによって術後の痛みを軽減することも目指します。

・鍼治療 鍼灸師は、整形外科の指示によって五十肩の患者さんに鍼治療を行うことができます。ツボの刺激による痛みの緩和とリラクゼーションを目指します。

・手術 一般的には、関節鏡視下関節包切離術(かんせつきょうしかかんせつほうせつりじゅつ)が行われます。これは、全身麻酔をかけて肩関節にカメラを入れ、痛みがない状態で関節の状況を確認しながら他動的に動かして癒着を解消する方法です。手術後はリハビリが必要になります。

7.失敗しない病院の選び方

7−1.明るい雰囲気で、よく話しを聞いてくれるクリニックを選ぶ

今関さんによると、良い病院とは良い医師や療法士、スタッフさんがいることだそうです。受付をする時から不安を解消してくれそうな雰囲気があり、看護師さんや医療スタッフの皆さんも明るい雰囲気で、医師もよく目をみて話しを聞いてくれる。そういうクリニックなら間違いないのでは、ということでした。

実際に、五十肩に限らず多くの整形外科疾患では、患者さんの日々の努力が不可欠です。患者さんがクリニックの治療方針を信頼して、回復に立ち向かう気持ちが何よりの薬になるのです。質問や疑問があっても聞ける雰囲気ではなく、ただ指示されたことを行うだけでは、効果は薄いのではないのでしょうか。そのような質問にも丁寧に答えてくれるクリニックで受診したいものです。

7−2.さまざまな治療方法を提示してくれるクリニックを選ぶ

人により症状は千差万別。特に五十肩のような原因がはっきりしない疾患の場合は、その傾向が顕著です。この記事でお伝えした通り、多くの治療法が世の中にはありますから、患者さんの状況(生活環境や仕事の状況なども含みます)に最も適していると思われる治療法を相談しながら選んでくれる医師のもとで治療を受けることをおすすめします。

7−3.頼りになるのは口コミ

病院の広告には制限があって、基本的には診療科目や診療時間、所在地等以外はうたうことができません。ですので、病院の特徴を打ち出しにくいのです。現代ではホームページで医院の内容を主体的に知ることができますが、雰囲気まではなかなかわかりません。お知り合いや地域の方の口コミは、客観的な評価ですから頼りにすることができます。

診療風景

患者さんの状況に応じてさまざまな提案ができるクリニックを探したい

 

8.まとめ

大掛かりな治療を行っても、根本の原因が解決していないと反対の肩に五十肩が発症したり、再発する可能性があります。

悪い姿勢や胸郭の動きが悪いことは、多くのカラダのトラブルの原因にもなりますので、これを機会にぜひ一人で取り組める方法を行って、五十肩とは無縁の生活を送ってください。

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