“体幹(コア)”について調べられている方が大勢いらっしゃいます。しかしその言葉の意味や場所を詳しく知っている方は意外と少ないのではないでしょうか?
体幹には2つの意味があります。広い方の意味では胴体のことを、狭い方では胴体の深層部の4つの筋肉、つまり横隔膜(おうかくまく)、腹横筋(ふくおうきん)、多裂筋(たれつきん)、骨盤底筋群(こつばんていきんぐん)を指します。この4つの筋肉を総称してインナーユニットともいいます。
このインナーユニットは、目に見えず動きもわかりにくく、意識しにくいものです。鍛えようとしてもなかなかイメージがわきませんよね。
しかし、トップアスリートは誰もが体幹トレーニングを行っています。
実は、人間が呼吸したり、姿勢を維持したり、動いたりする時にはこれらの筋肉が重要な役割を果たしています。パフォーマンスアップやケガ予防には欠かせない筋肉なので、持久力や瞬発力トレーニングなどと同様にアスリートは皆やっているといっても過言ではありません。
そして、これらの機能はアスリートのみならず全ての方に重要なものです。鍛えたり活性化を怠っているとどんどん衰えたり硬くなります。それに伴い肩こりや腰痛などいろいろなデメリットが生じてきます。ですのであらゆる方が体幹トレーニングを行うべきなのです。
今回は、体幹の位置やその機能、およびトレーニング方法をお伝えします。ぜひ今日から体幹を意識して、お伝えするエクササイズを行っていただきたいと思います。※本稿でお伝えする“体幹”や“インナーユニット”という言葉の定義は、(一財)日本コアコンディショニング協会(JCCA)のそれに基づいています。
この記事は石塚利光が監修しました。 日本コアコンディショニング協会コアコンディショニングリサーチディレクター/東京大学女子バレーボール部トレーナー/米国公認アスレティックトレーナー (BOC-ATC) /日本トレーニング指導者協会・認定上級トレーニング指導者(JATI-AATI)/ペンシルベニア州立カルフォルニア大学卒業/前・福岡大学助教/訳書「アスレティックボディ・イン・バランス」(Gray Cook著) |
目次
1.体幹とは?インナーユニットや胴体の機能について徹底解説!
冒頭でお伝えした通り、体幹には広い意味と狭い意味があります。それを説明したのが下図になります。ここではもう少し詳しく解説します。
1−1.深層部にあって見えにくい“インナーユニット”の4つの筋肉
体幹は、狭い意味では、インナーユニットともいう4つの筋肉の総称であることをお伝えしました。まずこの4つの筋肉を解説します。
インナーユニットの各筋肉は呼吸や姿勢、内臓の安定化に大きく関わっています。
■腹横筋
お腹のもっとも深層部にあるコルセットのような筋肉です。息を吸うことによって働き、お腹の内圧を高め、腹部の安定性に寄与しています。背骨に直接つながり“ローカル筋”を構成する一つの筋肉でもあります。
■横隔膜
肺の下にある呼吸のための筋肉です。息を吸おうとした時に下がり、肺に空気を取り込みます。息を吐こうとする時には持ち上がり、肺の空気を押し出します。腹横筋と関連して、多裂筋と骨盤底筋群の動きを引き出します。
■多裂筋
背中を後ろから支える深層筋です。背骨の骨それぞれを安定させ、正しい姿勢づくりに大きく関係しています。骨盤底筋群とも協働して骨盤の安定化にも関わっています。背骨に直接つながっているので、これも“ローカル筋”の一つです
■骨盤底筋群
骨盤のもっとも底にあって、骨盤の安定化、生殖や排泄、内臓位置の保持、呼吸に寄与しています。縁の下の力持ち的存在です。
これら4つの筋肉は地味ですが人間の根本的機能のために大切な働きをしているのです。インナーユニットの体幹トレーニングは、鍛えて筋肉をつけることではなく、正しい姿勢からの呼吸を元にした活性化エクササイズが中心となります。
1−2.広い意味での体幹=胴体全体も姿勢や動きには重要
広い意味での体幹は、より目に見える分かりやすい姿勢や動きに関わっています。胴体の体幹筋がうまく使えていないと、専門家が見れば「肩甲骨の動きが良くないな」とか「背骨が硬いな」とか「足の上がりが悪いな」とわかるのです。
ですので、広い意味での体幹、つまり肩甲骨やろっ骨まわり、背骨や骨盤、股関節も重要視するのです。これらの動きは、インナーユニットに起因する呼吸や姿勢が大きく関係していることがほとんどです。
1−3.インナーユニットに近い“ローカル筋”の考え方
日本における体幹トレーニング研究の第一人者である金岡恒治先生(早稲田大学教授・整形外科医・競泳日本代表チームドクター)らが提唱するのが“ローカル筋”の大切さです。
ローカル筋とは、腰部の深層筋の中で背骨に直結している筋肉です。インナーユニットでは多裂筋や腹横筋がそれにあたり、金岡先生らはさらに大腰筋(だいようきん)などもローカル筋の一つと定義しています。
ローカル筋は背骨の動きを安定させることで姿勢のコントロールを行い、スムーズな運動を可能にする重要な筋肉です。身体を取り囲んでいる腹横筋が収縮することによって腹圧が高まるのに加え、筋膜を経由して腰の骨を直接ひっぱるので腰椎の安定性も増すわけです。
引用:Number WEB <体幹トレの落とし穴> 体幹トレのせいで怪我をする!? ~ローカル筋とグローバル筋~
先生の考え方では、胴体部の筋肉にはもう一つ“グローバル筋”というものがあります。これは背骨とつながっていない筋肉で、腹直筋(ふくちょくきん)や腹斜筋(ふくしゃきん)などがそれに当たります。腹横筋よりもより皮膚側に近い筋です。
グローバル筋は腹筋トレーニング等で鍛えることができ、目にも変化がわかりやすいのですが、ローカル筋をおろそかにしたままグローバル筋だけを鍛えるとケガを起こしやすいと指摘しています。
呼吸や姿勢のための筋肉“ローカル筋”に、さらに呼吸に直接関わる横隔膜や、骨盤底部から重要機能をサポートしている骨盤底筋を加えたのがJCCAの“狭い意味での体幹”や“インナーユニット”の考え方で、大きな違いはほとんどないといえます。
2.体幹ケアのメリットはこんなにもあった!
体幹ケアは軸作りとも言われます。体幹が鍛えられ整うと体にまっすぐ一本の線ができあがったような感覚になります。静止時でも動作時でも姿勢が整い、効率的な動きができるようになります。空中姿勢もしっかりします。
走る時も打つ時も投げる時も蹴る時も、泳ぐ時も飛ぶ時も、体の軸がグニャグニャですと手足のパワーがでません。ベストな位置とタイミングで力を発揮することができないのです。そのためにも体幹トレーニングは重要なのです。
その他にもメリットはいっぱいあります。以下にご紹介します。
・ぽっこりお腹などの解消(カラダを引締める)
・持久力向上(疲れにくくなる・エネルギーロスを減らす)
・当たり負けしなくなる(タフなカラダをつくる)
・バランスが良くなる(あらゆる状況で、もっとも力が発揮できるポジションが体得できる)
・ケガをしにくくなる
・肩こりや腰痛が減る
・睡眠の質が向上する(心肺機能が向上し、呼吸が深くなる)
・他のトレーニングの効果を上げる(最適な姿勢でトレーニングできるようになる)
別記事「体幹を鍛える効果|バランス感覚とスポーツ能力向上の全知識」にて、なぜそのようなことが起きるのか詳しく解説していますので、さらに知りたい方はぜひご一読ください。
- 木場克己トレーナーは日本のトップトレーナーで体幹トレーニングの第一人者です。ご自身はレスリングをバックボーンに持っていました。
鍼灸師であった木場さんは、治療をサッカーチームで始めた頃、選手が恥骨結合炎など股関節周辺のトラブルに悩まされることが多いことに気づきました。レスリングや柔道では体づくりのために行う基本的トレーニングがサッカーではあまり行われていないことを発見し、アスリート用に体幹(コア)トレーニングを考え伝えたところ、股関節のトラブルが激減したそうです。
木場さんの開発したコアトレーニングは、その後、長友佑都選手の活躍で日本中に知れ渡ることとなり、その効果が多くの人に伝わるようになっています。
長友選手が考える体幹トレーニングの重要性は、別サイト記事「固めるよりも、緩めることの方が大事です〜長友佑都選手| Number Do より」にてもお伝えしていますので、ぜひ参考になさってください。
3.初心者でもカンタン!代表的体幹トレーニング10選
さっそく体幹トレーニングを行ってみましょう。やはりポイントとなるのは呼吸と姿勢です。まったくの初心者の方でもできるように、難易度順にお伝えします。
■ドローイン(難易度 ★)
ドローインは呼吸によってお腹の中の圧力(腹圧)を高めるエクササイズです。これ自体もトレーニングですが他の体幹トレーニングを行う際にこの呼吸を意識してセットで行うと効果が高いです。ぜひマスターしてください。
現状の「吸って吐いて」を確かめる準備運動から行いましょう。
自然な呼吸
仰向け寝になり足を90度に曲げます。まずは自然な呼吸を行います。ラクな呼吸で今のご自分の呼吸の感覚をつかみましょう。30秒。
逆腹式呼吸
息を吸う時にお腹の周囲が縮む呼吸です。スーーーッとゆっくり吸いながらお腹を凹ませていきます。難しいと感じる方は、自然呼吸からハッとかホッと息を吐きます。そこから息を吸うとともにお腹を凹ませていくとうまくいきやすいです。
自然な呼吸
再度、全身をラクにして自然な呼吸を行います。最初のときと呼吸やお腹の動きの違いはありますか? 確かめてみましょう。
腹式呼吸
今度は息をゆっくり深く吸いながらお腹を膨らませていきます。膨らみきったら息を吐きながらお腹を凹ませていきます。
※腹式呼吸が難しい方 脱力と深い呼吸が足りない場合が多いです。よくリラックスして深い呼吸を行ってください。カラダを左右に揺すったりしてもかまいません。
※それでも難しい方 一度ベッタリとうつ伏せになってみましょう。再度脱力します。息を吸いながらおへそで床を押し、お腹を膨らませてください。これが腹式呼吸の感覚です。仰向けでも行えるように少し練習しましょう。
腹式呼吸を繰り返したのちにそのままドローインを行います。
ドローイン(強制呼気)
腹式呼吸の流れのまま、息を細く長く吐きながら、お腹を凹ませていきます。
お腹から空気が出きった!というところでお腹をキープします。息は浅い胸呼吸で繰り返します。最初は10秒キープから。徐々に時間を延ばし30秒を目指してください。
息を細く長く吐き出す時には、おへそ周辺の一点だけを中に引き込むのではなく、お腹の前面を面のまま、ゆっくりじんわりと息を吐きながら少し凹ませ、お腹の圧を高めていきます。
脱力してドローインは終わりです。最後にもう一度自然な呼吸を行って、やる前との変化を感じてみてください。
この呼吸法をマスターすると、椅子に座っている時や立っている時も行うことができます。その時は逆腹式呼吸とセットで行ってください。
■キャットバック(難易度 ★)
腹圧を高め体幹を活性化しながら背骨の深層筋の動きを良くし、肋骨まわりの柔軟性もアップさせる運動です。難易度はそれほど難しくありませんが、上級者の方でも毎日行っていただきたいトレーニングです。
猫が寝起きに伸びをするような動きをイメージしてください。
肩とももの付け根から、床に垂直になるように手・ヒザをつき四つんばいになります。
1.背中を丸めながら天井へ引き上げます。この時に息を細く吐きながら、おへそに顔が近づいていくようにします。背中が丸められることで背骨にそった脊柱起立筋へのストレッチがかかります。
2.息を吸いながら、背中を反らしつつ、上と前に伸びていきます。前を見るように目線を上げ、首を前にのばしていきます。両手で床をじんわりと強く押していってください。
1と2を交互に繰り返しましょう。3〜5セット。
また、同様の状態から、左右の足のつまさきを覗き込むように上半身を左右に曲げていきます。腹斜筋へのストレッチがかかります。 正面に戻り、反対側も行います。3〜5セット。
■プランク(難易度 ★★)
代表的な体幹トレーニングです。ドローインの呼吸でお腹をしっかり固めて行いましょう。
腕立て伏せの姿勢から、肩の下にヒジが来るようにして床にヒジをつきます。頭からおしりまでが一直線になるようにしてお腹が落ちないように姿勢をキープ。呼吸はドローインのまま浅く吸って吐いてを繰り返してください。30~60秒を目安に行いましょう。
アレンジメニュー・ラクにできるようになったら、片足を床から20cm程度浮かしてみましょう。さらにお腹を鍛えられる運動になります。
■サイドプランク(難易度 ★★)
ヒザを90度に曲げ、肩の下にヒジが来るように床につけ横向けに寝ます。このとき、ヒジの角度は90度にしましょう。おなかが落ちないように頭からおしりまで一直線を維持して30~60秒を目安に姿勢を保ちましょう。
アレンジメニュー1・上になっているほうヒザからつま先までを15cm持ち上げます。
アレンジメニュー2・脚をカラダと一直線にし、上になっているヒザを床から上げます。
■ダイアゴナル(難易度 ★★)
キャットバックの体勢から、お腹に力を入れて片腕をあげます。そのまま反対の脚をあげます(右腕をあげたら、左脚をあげる)。この時、手の親指が天井方向に、足のつま先は90度を意識しましょう。カラダが左右にフラフラしないように、お腹にしっかり圧をいれてがんばってください。
10秒キープして、脚と腕をおろし、反対側も行います。左右交互に10回を目安に行いましょう。
■腕立てダイアゴナル(難易度 ★★★)
上記のダイアゴナルの難易度をアップさせたものです。より体の軸づくりに効果的です。
腕立て伏せの体勢をとってください。そこから、左(右)手と右(左)足が一直線になるようにまっすぐにあげます。
■ヒップリフトwithワンレッグエクステンション(難易度★★★)
脚の重さを上手に活用して多裂筋を活性化し、おしりと脊柱起立筋を鍛えるエクササイズです。片脚で支えるのでバランスを保つために他の筋肉も活用しています。腹横筋を意識して安定させるとより効果的です。
膝を90度に曲げた状態で横になります。膝から鎖骨までがまっすぐになるようにおしりを床から持ち上げます。片脚の膝を伸ばし、まっすぐを意識します。おしりを持ち上げたまま、足を左右入れ替えます。
左右10回ずつ3~5セットを目安にまずは左右10回ずつ3セットを目標に行いましょう。
■ワンハンドバックプランク(難易度★★★★)
体の軸をつくるエクササイズです。カラダを斜めにして体幹部全体を使って安定させるので少し強度が高くなります。バランスを崩しやすいので、周囲に注意して行いましょう。
足を伸ばして座りヒジをついて後ろに倒れていきます。肘を90度に曲げ肩の真下に肘をつき、お尻を床からあげましょう。片ヒジでカラダを支えながら上半身が回旋しすぎないように背中の筋肉を意識していきましょう。お尻を単にあげるのではなく、カラダが一直線になることが理想です。
1回3秒キープで左右10~20回を3セットできるようにがんばりましょう。
■ダイアゴナルバックブリッジ(難易度★★★★★)
おしりと背中を鍛えるエクササイズです。前述のダイアゴナルバックプランクよりキツいエクササイズです。バランスが崩れやすい体勢を取りながら、カラダを安定させるため様々な筋肉を使います。
前述の体勢から後ろに手をつき、肩の真下に手が来るようにつきます。手とかかとで体重を支えるようにお尻を床から持ち上げ鎖骨からくるぶしまでのラインが一直線になるように姿勢を整えます。姿勢が安定したら片手を前に出し、それと対角の脚を床から持ち上げましょう。
1回3秒キープで左右10~20回を3セットできるようにがんばりましょう。
■サイドエルボーブリッジ(ワンハンド&レッグレイズ) 強度:(★★★★★)
サイドエルボープランク・ブリッジ系のトレーニングで一番強度の高いメニューです。腹斜筋や腹横筋を鍛えるエクササイズで、一般の方に限らず、アスリートもトレーニングにぜひ取り入れていただきたいエクササイズです。
横向きで寝ます。肩からくるぶしまで一直線になるように姿勢を作り、肩の下に手のひらが来るようにして床に置きます。足のサイド部分と手のひらのみを床につけ、カラダを持ち上げましょう。
上にきている手と足を持ち上げて五角形を作るようなイメージで広げます。カラダが捻じれないように注意して姿勢を保持しましょう。
30~60秒3セットを目安にまずは30秒3セットができるようにがんばりましょう。
【ここまで読んでいただいた方に】
当ブログでは皆さんの目的に応じた体幹トレーニングの方法について様々な記事を用意しています。以下をぜひご覧ください。
もっとも基本的な体幹トレーニング“ドローイン”について詳しくお知りになりたい方は別記事「ドローイン|ダイエット&腰痛のために必ず行うべき最善方法」
ウエストのサイズダウンに取り組みたい方は「1週間で-3.5cm!ぽっこりお腹を解消する簡単体幹トレーニング」
腰痛に負けない強い腰を作りたい方は「腰痛ストレッチ・7つの筋肉を活用して慢性腰痛にサヨナラ!」
体幹トレーニングのやり方をもっと知りたい方は「体幹トレーニング50選!初心者〜上級者の1週間メニュー」
また、ストレッチポールを体幹トレーニングに用いると効果的に鍛えることができます。「ストレッチポール®がベスト体幹ツールの理由と効果的使用法」「【非公式】ストレッチポールマニアが教える極上使い方30選」をご一読ください。
4.まとめ
体幹とは、について、またその重要性とトレーニング方法についてお伝え致しました。まずはインナーユニットを活性化することで呼吸や姿勢を正しいものにすることが重要です。
その上で胸郭や背骨、骨盤、股関節を整え正しい動きができるようにし、体の軸作りを行います。
実はこのような機能は、人間が生まれて基本機能を獲得する生後1年くらいの間に成長しながら自然と獲得しているものなのです。
それが成長するに従い、姿勢が悪くなったり、動きのクセができたり、呼吸の仕方が本来のものとはかけ離れてしまい、いろいろなところに悪影響を及ぼしています。この記事を読んでいただいた方の日々のお悩みや不調はそのへんに原因があるかもしれません。
人間本来の機能と状態を取り戻しさらに強化するために体幹ケアが必要なのです。ぜひ日々の生活に取り入れて頂ければと思います。
参考:体幹ケア
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